会社帰り、少し久しぶりのデパ地下へ寄った。
シャインマスカットなどの葡萄、梨。
さんまに松茸。
並んだ食材を眺めているだけで、
まだ暑さの残る街の中を、
秋だけがひと足先に
歩き始めているようだった。
9月2日は、午前中の打ち合わせを終えたら、
お盆に行けなかったお墓参りへ行く。
家で夕食を作れるのも、その日だけ。
最初は簡単に鰻の蒲焼きでいいかなと
思っていたけれど、
せっかくだもの。
さんまに松茸。夏の名残りの鱧も、
お吸い物にしたら素敵だろう。
先日教えていただいた、
おいしいカツオの刺身も少しだけ……。
そんなふうに、
頭の中では早くも小さな晩餐が始まっていた。
家に着いたのは15時過ぎ。
17時には家族との
焼肉のお食事会が待っている。
キャリーケースを片付けて、
また4日から始まる
横浜ステイの準備もして——。
結局、今日もゆっくりするのは
夜になってからね。
そう思いながら、ふとベランダへ出た。
暑い。
でも、風さんがやってきた。
「わあ、なんだか顔を見るの、久しぶり」
そして空を見上げて、思わず立ち止まった。
限りなく透明に近い空色。
そこに浮かぶ真っ白な雲が、光っている。
こんな空、初めて見るかもしれない。
じっと眺めているうちに、
その雲が何かに見えてきた。
「あっ、鱧だ」
今日のお昼にいただいた、鱧の湯引き。
匠の骨切りによって、
湯の中でぱあっと花開くように咲いた、
あの鱧落とし。
傍らにちょこんと浮かぶグレーの雲まで、
梅肉のように見えてくる。
「ねえ風さん。あれ、鱧落としに見えない?」
なんだか、おいしそう。
思わず笑った。
「よし。2日は鱧落としも追加しよう」
そうなるとカツオはどうしよう。
さんまに松茸、鱧——。
風さんと相談するように、
空を見ながら献立を組み立てていく。
そうして、ふと気づいた。
ああ、こんなふうに何もせず、
ぼんやり空を眺めたのは久しぶりだ。
ゆっくりする時間なんて
夜までないと思っていたのに、
ほんの少しだけ、
空が私の時計を止めてくれた。
夏の名残りの鱧が、
秋へ向かう青空に白い花を咲かせている。
季節はきっと、
カレンダーを一枚めくった瞬間に
変わるのではない。
こんなふうに、
空や風や食卓の中で、
少しずつ次の季節へ渡っていくのだろう。
空に咲いた、夏の名残り✨
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