10時半を過ぎ、
業者さんとの打ち合わせが始まった。

その傍らでは、新しいレッツノートと、
これまで使ってきたVAIOの
設定作業も進んでいる。

「すいません、ちょっといいですか」
「スマホを貸してください」
「ここを設定してください」
打ち合わせの途中にも何度となく声がかかり、
話は進んでは止まり、また進む。

まあ、12時までは大丈夫。
今日は少しゆっくりいこう。

それにしても、
パソコンを替えるというのは、
いつだって大変だ。
これもいる。
あれもいる。
これは絶対にないと困る。
伝えたつもりでも、
実際に使い始めると、
「あ、これがない」
「あれもない」が、次々と顔を出す。

後日に回せるものならいい。
けれどテレワーク中に「大至急」と言われ、
その“大至急”に必要なものだけが
抜けていたら困る。
仕方がない。
今回の横浜ステイは、二台連れていこう。

新しいシルバーのレッツちゃん。
そして、長い間付き合ってきた
黒いバイオちゃん。

本当は、バイオとのお別れが少し寂しかった。
ずっとVAIOを選んできた私には、
あのすっきりした黒い姿にも愛着がある。
ところが、
まだしばらく一緒だと思った途端、
寂しかったはずの心が少し嬉しくなった。
荷物は重くなるのに、不思議なものだ。

一方のレッツちゃんは、
少しいかついシルバーの顔。
なんだか、しかめっ面を
しているようにも見える。
でも、動かしてみればサクサク、快適走行。
そのシャープな姿も、
いかにも「私は仕事ができます」
と言っているみたいだ。

桃色予感の記念日。
今日、会社で感じたいくつもの嬉しい予感。
そのご褒美のように、
私は新しいレッツちゃんを持って帰る。
でも、バイオちゃんも一緒。

しばらくは二人に仲良く協力してもらおう。
そして私は、
少しずつレッツちゃんと語り合い、
その癖を知り、仲良くなっていけばいい。

そんなことを考えながら、
打ち合わせの合間にあちらへ行ったり、
こちらへ行ったり。
そのついでに自分の用事も片付け、
これからの予定を頭の中で組み立てていたら、
今日予定していた仕事もひとまず終了した。

さあ、帰ろう。
お腹も空いた。
いただきもののへぎそばを茹でて、
今日はざるそばにしよう。
ああ、あの冷たいのどごし。
早く口にも、喉にも、お腹にも
与えてあげたい。

外ではきっと、
風さんも手ぐすねを引いて待っている。
そう思ったとき、ふと浮かんだ。

めぐり木は、今頃どうしているだろう。
モチおじさん。
なぞちゃん。
遠く離れて、今は目には見えない。
けれど、ちゃんと心の中にいる。

そして――
目の前の二台を見ていたら、
なんだか可笑しくなってきた。
しかめっ面だけれど
頼もしそうなレッツちゃんは、モチおじさん。
すっきりした姿で、
長く私のそばにいてくれたバイオちゃんは、
なぞちゃん。
ふふっ。こんなところにもいたのね。

目には見えなくても、
心に残ったものは、
姿を変えてまた目の前に
現れるのかもしれない。

そして私の心にはもうひとつ。
桃色の予感をたっぷり注いでもらった、
小さな新芽がある。
古い相棒と、新しい相棒。
二人を抱えて帰る今日の私は、
少し荷物が重い。
でも――心は、昨日までより少し軽い。