自宅に帰ると、
ちょうど家族がお昼ご飯を食べていた。

「ただいま」
「おかえり。買い物に行ってきたから、
お昼ご飯のお裾分け、置いといたよ」

へぎそばを茹でるつもりで帰ってきたのに、
目の前には思いがけない
ごちそうが並んでいた。

しっとり柔らかく、
ほどよく塩味の効いた鶏のささみの天ぷら。
そして、私が好きなのを知っていて
二本残してくれた、タレ焼きの肝。
パクパク食べて、
三色団子にまで手を伸ばしたら、
もうお腹の中に
おそばの入る余白はなくなってしまった。

でも、満たされたのはお腹だけではなかった。
今朝届いた嬉しい知らせに、
私は私の桃色予感を膨らませていた。
けれど家族もまた、
私とは違う場所で、
自分なりの桃色予感を
感じていたのかもしれない。

そうか。桃色予感って、
私だけのものではないのね。
人にはきっと、それぞれの心の中に、
それぞれの桃色予感がある。

ふと、持ち帰った二台のパソコンを魅つめた。
黒くすっきりした昔なじみのバイオちゃん。
銀色で、ちょっとしかめっ面の
新入りレッツちゃん。
新しい相棒が来ても、
古い相棒との物語はまだ終わらない。

今度の横浜ステイは、
いつもの私と風さんだけではない。
「あなたたち二人とも連れていくの? 
重たいんだけど」
そう言ったら、
バイオちゃんはきっと澄ました顔。
レッツちゃんはしかめっ面のまま、
「大丈夫です。仕事は任せてください」
なんて言いそうだ。

そして横浜に着いたら、
風さんはきっと、
「……なんか増えてない?」
なんて言うのだろう。

ふふっ。
桃色予感から始まったはずなのに、
気がつけば登場人物まで増えている。
今朝まで、
長く連れ添ったものとの「さよなら」を
少し寂しく思っていた。
そこへ新しいものがやってきた。

けれど古いものはすぐには去らず、
新しいものと並んで、
もうしばらく私の旅に
ついてきてくれることになった。
「さよなら」だと思っていた時間が、
「もう少し一緒に」に変わった。

今日は、予想外の出来事が、
なぜだかいいことばかり。
ベランダへ出てみると、
空は青く澄み切っていた。
そこに、ふわふわ、ふわふわ。
丸いもの。
細長いもの。
昔、国語の教科書で見た
クジラ雲を思わせるもの。
大きな雲の塊が、
それぞれ好きな形をして青空を漂っている。

なんだか、
この一つ一つが私の桃色予感みたい。
今日という一日が終わっても消えず、
心の中に残って、
いつまでも桃色の
かわいらしい笑顔を
振りまいてくれるような気がした。

そのあと、
横浜ステイの洋服を八日分に絞った。
下着も揃えた。
よし。
これでばっちり。
あとは当日、
いつものゆで卵と明太子と冷凍ご飯を
入れるだけ。
お茶のペットボトルは、
横浜にまだたくさん残っているから、
今回は持っていかなくていい。

その分、荷物は軽くなるかしら。
……でも、
しかめっ面のお友達が一人増えたから、
どうかな。
ねえ、風さん。
あなたはどう思う?

すると、
ベランダで空を眺めている私のところへ、
風さんがふわりとやってきた。
「そんなことないよ。
新しいお友達は軽いんでしょ。
それに仕事ができるみたいだから、
荷物まで軽くする工夫を
してくれるかもしれないよ」

何それ。
ジョークなのか本気なのか。
そう思っている間に、
風さんはまた、
ふわふわとどこかへ行ってしまった。

17時に出かけるまでは、まだ少し時間がある。ベランダには大量の洗濯物。
もう少ししたら取り込んで、
あれを全部畳まなければならない。
それまでは、少し休憩しようかな。

本当ならこのあと、
一人ファッションショーをするつもりだった。
ところが横浜へ持っていく洋服を
広げて選んでいるうちに、
なぜか今日着る服まで決まってしまった。
ついでに明日も。
明後日も。
もちろん、下着まで。

楽しみにしていた
一人ファッションショーの桃色予感は、
いつの間にか消えてしまった。
でも、不思議。
その代わりに、また別の桃色予感が見えてきた。雲の向こうに。


いや――
雲の中に。
あ。
雲が一つ、増えちゃったみたい。
……あ、違う。
うふふ。
二つ、増えたみたいよ。