スタッフとの打ち合わせは、
思っていたより30分ほど早く終わった。
着地点も、ほぼ私が思い描いていた通り。
なかなか、いい気分。
このままお昼を適当に食べながら、
会社でWBSと
進捗管理表を作ってしまえば、
早く帰れるかもしれない。
けれど、今日はそうしなかった。
身体を休ませたいというより、
少し頭を休ませたかった。
いや、休ませるというより、
頭の中に余白を
つくりたかったのかもしれない。
広いテーブル。
ゆったりしたソファ。
時間に急かされず、一人で考えられる場所。
真っ白な紙を広げて、
ボールペンを握り、
自分の頭の中にあるものを
一度手書きで立ち上げてみよう。
そう思った。
食べたいものから店を選ぶのではなく、
今日は空間から選ぶ。
行き帰りの時間も惜しいから、
近くのホテルのティーラウンジへ向かった。
一人で静かに。
誰にも話しかけられず。
紙と頭をいっぱいに広げられる場所へ。
案内されたのは、
ゆったりしたコーナーソファ。
まず腰を落ち着け、ガラス越しに外を眺めた。
行き交う人々。
観光を楽しむ人。
買い物へ向かう人。
その流れをしばらく眺めてから、
いつも持ち歩いている空色の手帳を開く。
今日終わったことにチェックを入れ、
午後、明日、明後日、今週、来週、
そして10月へと目を走らせる。
そうしているうちに、
サンドイッチとコーヒーが運ばれてきた。
正直なところ、
値段ほど美味しそうには見えない。
でも今日は、食事を買いに来たのではない。
静かに考えられる時間と空間を買いに来た。
そう思えば、これでいい。
食べてから始めればいいのに、
私はいつものように紙を広げてしまった。
まずはWBS。
今日の打ち合わせを頭の中で
もう一度動かしながら、
線を引き、文字を書き、図を描く。
出来上がっていくのは、
おそらく私にしか解読できない地図。
それでいい。
清書するのも私なのだから。
描いている途中で気づいたこと、
抜けていたことを余白へ書き足していく。
ここでようやく、サンドイッチを一切れ。
WBSができたところで残りを食べ、
次は進捗管理表へ。
役割分担までは、サクサクと進む。
難しいのは、その先だった。
半年ほど続くプロジェクト。
頭の中で、一人一人の仕事を動かしてみる。
ここの線が伸びる。
あちらの線も伸びる。
この仕事と、あの仕事はここで合流する。
これが終わらなければ、次は始められない。
こっちが動いたら、あちらも動き出す。
まるでパズルのピースを
一つずつ動かすように、
半年先まで時間を組み立てていく。
そして最後の線が納期まで伸びた。
ああ、できた。
半年のプロジェクトのために使った、
ほんの一時間ほどの思考。
でも、きっとこの一時間が大切なのだ。
最初にここを曖昧にしてしまえば、
走り始めてからどこかが揺らぐ。
道筋をきちんと描き、
それぞれの役割を明確にしておけば、
次の打ち合わせでは
みんなが同じ地図を見ながらスタートできる。
私は、この一人でこもって
考える時間が結構好きだ。
一日中でもやっていられるかもしれない。
けれど面白いことに、
ずっと仕事だけを
考えていたわけでもなかった。
少し煮詰まると、ふわり。
意識が夕方の食卓へ飛んでいく。
カツオはやっぱりやめておこうかな。
鱧は炙りがいい。
松茸はどうしよう。
松茸ご飯。
焼き松茸。
お吸い物もいい。
そんなことを考えている。
そして、また紙へ戻る。
一本、線を引く。
考える。
また少し詰まる。
すると、ふわり。
また食卓へ旅をする。
仕事へ戻る。
また旅をする。
その繰り返し。
集中しているようで、
私の頭はずいぶん自由に
あちこちを旅していたらしい。
それでも最後には、
ちゃんと半年先までの道が
紙の上に出来上がっていた。
さあ、この大事な紙を持って会社へ戻ろう。
ここからは、頭の中を旅して描いた地図を、
パソコンの中で
きちんとした形へ変えていけばいい。
そして、それが終わったら。
今度こそ仕事の紙を閉じて、
夕方の食卓へ向かおう。
今日、私の頭はいろいろな場所を旅した。
半年先の未来へ。
夕方の我が家の食卓へ。
そして、また今ここへ。
そんな私がずっと肌身離さず持っていたのは、
何枚かの白い紙と、
一本のボールペンだった。
紙の上を旅する午後✨
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