長い一日が終わろうとしている。

今日は、よく眠った。
まるで、名探偵コナンの眠りの小五郎だわ。

麻酔銃の針が刺さる度に、コテン……。
私は、麻酔銃ではなくアイマスク。
つける度に、コテン……。
眠りの森村になった。
振り返ると、4回も……。

でも、そんな一日もとてもよかった。
眠りの森村になったからこそ、
小五郎のように閃いたことがあった。
できたことがいっぱいあった。

事件?も解決できた。
というか、新しい発見があった。
小五郎を陰で助けるのはコナンだけど、
私の場合は、風さんかな?

思えば今日も、風さんはずっとそばにいた。
眠っている間は、
きっと窓の外で待っていてくれた。

目覚めて外へ出れば、
何食わぬ顔で頬を撫でた。
冷たい雨まで連れてきて、
半分眠った私を
少しだけこちら側へ戻してくれた。

そして今日、
思いがけない再会の予感まで届いた。
一本の間違い電話が、遠い時間の扉を開いた。

忘れていたわけではない。
でも、静かにしまっていた記憶が、
突然色を取り戻した。

過ぎ去った時間とは不思議なものだ。
戻ることはできないのに、
心だけは一瞬であの日へ帰ることができる。

そして夜には、もう一人。
虹色少年。

誰よ、あなた。
暴れん坊将軍が音声入力の中で、
どういう道を歩けば虹色少年になるのか、
いまだにわからない。

でも、9日間の最後の夜に
こんな珍客が現れたことまで、
なんだか今日らしい。

明日は3時に起きる。
始発に乗って横浜を離れ、紀州へ向かう。
だから、そろそろ今日だけではなく、
この9日間そのものを閉じよう。

雨の日があった。
強い風の日があった。
雲の切れ間から朝陽が現れた朝もあった。

大通り公園の緑を魅た。
横浜港から眺めた海を魅た。

大さん橋で船の音を聴いた。
雨粒の音を聴き、
自分の靴音を聴き、
風さんと話した。

たくさんのドアも開いた。
その向こうには、
それぞれ違う笑顔があり、
温もりがあり、
思いがあった。

久しぶりの再会も、
初めての出逢いもあった。
そして人と逢うたび、
私は相手の心だけではなく、
自分の心にも触れていたのだと思う。

仕事もした。
悩みもした。
夢にまで叱られて、
後回しにしていたことを片づけた。
雨の中も歩いた。
眠った。
笑った。

そして時には、何もしない時間さえ楽しんだ。

9日前、
この街へやって来た私と、
明日の始発に乗る私は、きっと少し違う。

何かを置いて帰るのではない。
むしろ、たくさんのものを抱えて帰る。

朝陽の色。
雨の音。
海の匂い。
木々の緑。
開いたドアの向こうの笑顔。
そして、いつも隣を歩いてくれた風さん。

横浜は今回も、
私に答えをくれたのではなく、
まだ知らなかった私をいくつも魅せてくれた。

長い一日が終わろうとしている。
そして、9日間の横浜ステイも
最終章に入ろうとしている。

でも、物語が終わるわけではない。
明日のまだ暗い朝、
私は白いキャリーケースを引いて、
この街をあとにする。

そのときも、
風さんはきっといつものように隣にいる。
横浜を離れるだけで、
風さんと別れるわけではない。

街が変わっても、
空が変わっても、
風さんは私と一緒に次の景色へ向かっていく。

眠りの森村も、
間違い電話も、
冷たい夜雨も、
そして正体不明の虹色少年さえ連れて。

9日間を歩いた足跡は、
朝になれば街の中へ溶けていく。

それでも私の中には、
消えない横浜が、またひとつ増えた。

そして今夜、
仕事を終えてお部屋に戻ったら、
その横浜を胸いっぱいに抱いて、
アイマスクをつけよう。
最後にもう一度、眠りの森村になって。

そして目覚めたとき——
風さんと一緒に、旅立ちの朝が始まる。