一枚のタオルを
水に濡らす。

これが
この部屋に残した
最後の一枚。

床に手をつき
ゴシゴシ
ゴシゴシ。

同じところを
何度も往き来する。

掃除が好き。

綺麗にしておきたいから。

でも
それだけではない。

私はいつも
掃除をしながら
心もクリーニングしている。

ゴシゴシ
ゴシゴシ。

手は前へ、
後ろへ。

けれど不思議と
心はどこへも移ろわない。

この部屋にいる。

この9日間にいる。

笑った私。
迷った私。
嬉しかった私。
少し立ち止まった私。

いくつもの私が
磨いた床の向こうから
ひとり、またひとり
姿を現す。

それは
反省ではない。

省みる、ということ。

昨日までの自分を
裁くためではなく、

明日の自分へ
つなげるために。

掃除機では
吸い取れないものがある。

ふと思うだけでは
見つけられないものがある。

心の奥深くに沈んでいた思いを
一拭きするたび
そっと掬い上げる。

捨てるのではない。

見つけて、
省みて、
磨いて、

もう一度
私へ戻す。

ゴシゴシ
ゴシゴシ。

床が光る。

心も光る。

やがて手を止めて
部屋を見渡した。

綺麗になった。

さっぱりした。

そして私も
少しだけ新しくなった。

最後に残すものは
足跡ではなく、

ここで生きた時間。

ここで感じた心。

それだけを
私の中へしまって、

磨き上げた床に
新しい私の足を置く。

さあ、
今日の最初の
一歩を踏み出そう。