若い日の私が歩いた道を抜けると、
少しずつ、朝の町が目を覚まし始めていた。
見慣れたはずの町なのに、
朝の光の中では、どこか違って見魅える。
町家の軒先。
格子戸の向こうに残る静けさ。
細い路地の先に重なる屋根。
その隙間から、
やわらかな光が差し込んでいた。
昨日までなら、
まだ夏の続きのように感じていた景色。
けれど今朝は、
そこにほんの少しだけ
秋の匂いが混じっている。
風さんもそうだった。
頬に触れる風はまだ冷たいわけではない。
それなのに、どこか軽い。
ねえ、風さん。
季節、動き始めたのかな。
そんなことを心の中で問いかけながら歩く。
夏から秋へ。
季節は、ある朝突然変わるわけではない。
光の色が少し変わり、
風の温度がほんの少し変わり、
着るものが一枚増え、
気づかないほど小さな変化を重ねながら、
いつの間にか次の季節へと渡ってゆく。
人の心も、きっと同じなのだろう。
若かった頃の私から、今の私へ。
あの日と今日の間にも、
いくつもの季節があった。
笑った日も、
迷った日も、
立ち止まった朝も、
それでもまた歩き始めた朝も。
その全部を抱えながら、
私は今ここを歩いている。
だから昔の道を通った今朝も、
懐かしさだけでは終わらなかった。
あの頃の私に会って、
もう一度今の私へ戻ってきた。
そして顔を上げれば、
目の前には、目覚めゆく朝の町。
路地の奥から光が差している。
私はその光の方へ歩いていく。
夏を少しだけ背中に残して。
秋へ。
そして、
まだ知らない今日へ。
秋、路地に兆す🍂
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