長い一日が終わろうとしている。

風さんと今日の素敵な夜のことを語りながら、
お部屋へ帰ってきた。

そして今、日記を書きながら
今日という一日を振り返っている。

不思議だな。

横浜に着いたとき、
私はまだ今日という一日の中に
何が待っているのか知らなかった。

それなのに、
お部屋でキャリーケースを開き、
いつもの場所へ
ひとつずつ荷物を収めていくうちに、
なぜだかふっと思った。

この一週間、いいことがありそう。
何の根拠もなかった。
でも心だけは、
もう何かを知っていたのかもしれない。

3日ぶりに歩いた大通り公園もそうだった。
曇り空なのに、
木々は少しも曇っていなかった。

むしろ自分たちの緑を
一生懸命に輝かせているように魅えた。

あの大きなクスノキを見上げれば、
遠い歴史の記憶がふっと目を覚ます。
「嗚呼忠臣楠子之墓」

そして、なぜか今日は、
その木が「愛の木」のように思えた。
きっと私の心が、
これから逢うあなたの方へ
向かっていたからなのだろう。

あなたの姿を見つけた瞬間、
思いっきり手を振った。
やった。逢えた。
ただそれだけのことが、
たまらなく嬉しかった。

逢いたいと思う人がいる。
その人に逢える。
隣に座って笑い合える。
すぐそばに、その人の温もりを感じられる。

そんなことは決して当たり前ではないのだと、
年齢を重ねるほどに思う。

だから私は、
今日の一つひとつを
心の中でそっと
抱きしめていたのかもしれない。

そして今、目を閉じると浮かんでくる。

あの色。

深く、それでいてどこか神秘的な、
透き通るような群青色。

魅つめているうちに、
それはいつの間にか
日本酒の器の色ではなくなっていた。

あなたと私の間に流れていた時間の色。
言葉では見えない二人のつながりの色。
今日という夜そのものの色になっていた。

今日一日の物語は、
最終章に入ろうとしている。

横浜ステイは、まだ始まったばかり。

この先に何が待っているのかはわからない。
それでも、今日の始まりに感じた
「いいことがありそう」という予感は、
夜になった今、
少しだけ輪郭を持ちはじめている。

幸せとは、
大きな出来事の名前ではないのかもしれない。

逢いたいと思うこと。
逢えたと笑うこと。
別れ際に「また明後日」と言えること。
そして一人になった帰り道にも、
その人と過ごした時間が
心の中でまだ続いていること。

ねえ、風さん。
今日の私、幸せだったね。

返事の代わりのように、
風さんがふわりと髪を揺らした。

うふふ。
そうね。

言わなくても、もうわかっている。
今日という一日を閉じても、
あの色は消えない。

あなたと過ごした時間を映した、
透き通るような群青色。
その色を心の奥にそっと灯して。

おやすみなさい。

横浜で始まった、
新しい一週間の最初の夜。