ウィーン——。
かすかな音とともに、
うっすら意識が戻ってきた。
目元にふわっと風が当たる。
この仕上げの瞬間になると、
いつも少しくすぐったさを感じて目が覚める。
「ゆっくり目を開けてください。
しみたり、違和感はありませんか」
終わりを告げる、いつもの決まり文句。
でも私は、ゆっくりではなく——
ぱっ。
「うわぁ」ところどころ隙間のできていた
まつ毛が綺麗に埋まり、
すっと揃っている。
お目目ぱっちり。
それだけで、眠っていた私の気分まで、
もりもりと持ち上がっていく。
やっぱりマツエクは、
私にとって自分磨きの最後のひと筆なのだ。
「ゆっくり起き上がってくださいね」
そう言われても、これがなかなか大変。
だって、ほとんど熟睡していたのだから。
全身が筋肉痛になったような重たい身体を、
よいしょと起こして時計を見る。
11時半。
あら、予定より30分も早い。
そのまま急げばお店へ向かえなくもない。
でも今日は14時からにしてある。
よかった。
私は、こういう予定と予定の間に生まれる
移ろう時間が好きなのだ。
帰り道、なんとなく何か食べたくなって
コンビニへ。
からあげクンの新商品。
つぶつぶコーン味。
「今までで最強の具材感」なんて書いてある。
ちょっと食べてみようかな。
手が伸びかけて——やめた。
パン屋さんも今日は素通り。
そのとき、
ある和菓子屋さんの前を通って思い出した。
あっ。
昨日いただいた和菓子がある。
昨夜、帰ってから
「食べてはいけない、食べてはいけない」
と自分の食欲と戦い、
目に見えないところへ隠したのだった。
隠したら、本当に記憶からまで消えていた。
お部屋へ帰ると、
そそくさと袋を取り出した。
ひとつ、ぱくり。
ああ。このもちもち感、たまらない。
丸い大福ではない。
四角い板状のお餅にえんどう豆が練り込まれ、
そのお餅でこしあんをくるくると巻いてある。
だから、大福よりお餅の存在感が
しっかりしている。
もちもち。
こしあんの優しい甘さ。
そこへ、えんどう豆から感じるほのかな塩味。
この甘さと塩気。
好きかも。
昔食べた、
あの有名な塩豆大福まで思い出した。
何年前だっただろう。
いや、何十年前?
そんなことを考えながら、
何気なく袋を見る。
そこには——「おとめ餅」と書いてあった。
なんと面白い商品名。
そして、なんという奇遇。
今朝ずっと乙女の祈りを胸に抱き、
傘3号の雨粒を覗きながら、
いくつもの時代の乙女を拾い集めてきた私が、
最後には、おとめ餅を頬張っている。
乙女の祈りを捧げながら、
おとめ餅を食べる乙女。
ふふ。
こんな朝も悪くない。
〜おとめ餅 乙女の祈り胸に抱き
甘き誘惑 君を恋ふ朝〜
乙女、餅に逢う✨
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