4日ぶりの待機所。

いつもの居場所は、ちゃんと空いていた。
しかも新しい大きめの毛布まである。
そうそう、ここ、ここ。

私の場所。

なんだか少し弾むような気持ちになりながら、
いつものように場所を整え、
ゴロンと横になった。

日記を書き終えたら『鬼の花嫁』を読もうか。 それとも、また睡眠時間にしてしまおうか。

そこで気づいた。

しまった。

アイマスクを忘れた。

まあいいか。

出勤前に1時間ほど眠ったのだもの。
たまには眠る代わりに
若様の世界へ行くのも悪くない。

そうして物語の扉を開いたところで、
今度はメールの着信音が鳴った。
お仕事だ。

外へ出ると、雨はまだ降り続いていた。
少し小降りになったものの、
風さんまで今日は冷たい。

「寒いね、風さん」
「羽織るもの、持ってこなかったの?」
「そうなの。お部屋に置いてきちゃった」

そういえば、
横浜駅近くのホテルに預けたままの
ウィンドブレーカーも取りに行かなければ。

明日にしようか、土曜日のついでにしようか。 

そんなことを考えているうちに
ホテルへ着いた。

そして、最初のドアが開きました。
そこにあったのは、満面の笑みだった。
私の顔を見た瞬間、
本当に嬉しそうに笑ってくださった。
その笑顔を見ただけで、私まで嬉しくなる。

「やっと逢えたんだよ」
あなたはそう言った。

毎日あんなに長い日記を書いているのは、
いったいどんな人なんだろう。
一度逢ってみたいと思っていたのだ、と。

私の日記を読んでいてくださったのね。
それだけで嬉しかった。

初めて逢ったはずなのに、
不思議なくらい言葉がほどけていった。

飾らない誠実さ、素朴な優しさ。
あなたと話しているうちに、
初対面という小さな壁が
いつの間にか消えていた。

そして別れ際、あなたが言った。
「次もまた逢いたい」
「私も逢いたいわ」

それは考えて選んだ言葉ではなく、
心からそのままこぼれた声だった。
腕を組んでホテルを出たところで、
あなたがふいに言う。

「もう少し一緒にいない?」

え?

驚いた。
でも、嬉しかった。
私もあなたの笑顔に
吸い込まれるように頷いた。

そして二人は、もう一度別のドアを開いた。
けれど、そのドアを開けた二人は、
もうさっきの二人ではなかった。

初対面の緊張は消え、
そこには温かく、
どこか懐かしい空気が流れていた。

仕事の話で笑い、語り、
何度も優しく抱きしめられた。

「また呼んでもいい?」
「待っているわ」

やがて二人で雨の街へ出た。
「じゃあ私はこっち。あなたはそっちね」
「そうだね」
「じゃあ、また待ってるわね」

あなたが遠ざかっていく。
私はポツポツと落ちる雨の中、
その後ろ姿をしばらく魅つめていた。

風さん、
夕方になったらずいぶん冷たくなったね。
けれど不思議。
身体は寒いのに、
心の中にはまだ、
あの笑顔の温もりが残っている。

次は19時。
「風さん、いったん待機所へ戻ろう。
一緒に帰ろう」

雨の中、またいつもの居場所へ向かって
歩き始めた。

雨のなか
ふたたび開く
同じドア
初めての人
懐かしき人

— Morimura