それから次のホテルへ向かおうとしたけれど、
あなたはまだ入室されていないようだった。
連絡があるまで、
私は外で日記を書きながら待つことにした。

「連絡がつかないので、
もしかしたらキャンセルになるかもしれません」

そう聞いても、不思議と焦りはなかった。

わかりました、と答えて、

まあ、だめなら仕方ないか、

と再び日記の世界へ戻った。

すると10分ほどして、入室されたとの連絡。
私は日記を閉じ、
あなたの待つ部屋へ急いだ。

そして次のドアが開きました。
「はーい!」明るい声と一緒に、
笑顔のあなたが飛び出してきた。

「ごめんね。なんかバタバタして。
キャンセルになるところでしたって
言われて焦ったよ。
キャンセルになったらどうしようと思って」

部屋に入るなり、
あなたはここへ来てから起きた出来事を
次々と話してくれた。
ずいぶん早くホテルには着いていたらしい。

ところが携帯の電波がうまくつながらず、
あれやこれやと試しているうちに
時間だけが過ぎていったという。
その話を聞いていると、
部屋の中を右往左往していた
あなたの姿まで目に浮かぶようで、
なんだかおかしかった。

でも、その一生懸命さがかわいらしかった。

初めて逢った人なのに、不思議だった。

慌てたことも、困ったことも、
飾らずそのまま話してくれる。
そんなあなたの
誠実さやひたむきさに触れているうちに、
私の中にふっと柔らかな気持ちが生まれていた。

妙にかわいらしい人。
だから少しだけ、
「お姉さんに任せなさい」
そんな気分になった。
もっとも、そんなに歳は違わないのだけれど。

あなたは安心したように私に身を委ねた。
そして、あなたが
心地よさそうにしてくれることが、
いつの間にか私の喜びになっていた。
あなたの腕に抱かれながら過ごした時間は、
激しい雨ではなく、
静かな夜に降る細い雨のようだった。

触れるたびに心がほどけ、
ほどけるたびに、また少し近くなる。

雨に濡れるような、
心和む夜。
あなたの誠実さ。
ひたむきさ。
少し不器用で、
どこか放っておけない人間らしさ。

それらすべてが愛おしく思えて、
気づけば私は、
あなたを守ってあげたいような
気持ちになっていた。

「また逢えたら嬉しいな」
そう言いながら、
「でも浮気性みたいだから、
いつになるかわからないわね」

最後は二人で笑った。
次がいつなのかは、わからない。
約束だってしていない。
それでもいい。
危うく開かないまま終わりそうだった
今夜のドアは、ちゃんと開いた。

そしてその向こうには、
思いがけず愛おしい人がいた。


逢えぬかと
思いし扉
ひらく夜
雨にほどける
あなたの笑顔

— Morimura