長い一日が終わろうとしている。

今夜の私は、
なんだか少し不思議な国から
帰ってきたような気分でいる。

今日という一日は、何だったのだろう。

終わったと思ったら、もう一度始まる。

閉じてしまうと思ったら、するりと開く。

さよならをしたはずなのに、
また「お帰り」と迎えられる。

まるで見えない誰かが、
私の少し先を歩きながら、
扉の鍵をひとつずつ開けてくれていたみたい。

そのたびに私は、えっ?

本当に?

うふふ。

そんな小さな驚きを胸の中で繰り返していた。

思えば今日は、
何かを必死につかみにいった一日ではなかった。だめなら仕方ない。
そんなふうに力を抜いたとき、
ふいに扉が開いた。

もうこれでおしまい。
そう思って手を振ったあとから、
もう一度時間が私のところへ戻ってきた。

不思議だった。

でも、その不思議はいつも
少しだけ幸運を連れていた。

今日一日の私の物語は、
最終章に入ろうとしている。

振り返れば、
私の心は一日中、
小さな振り子のように揺れていた。

期待して、手放して。

驚いて、喜んで。

別れて、また逢って。

けれど、その揺れを繰り返すうちに、
いつの間にか私は
今日という一日そのものを
面白がっていたような気がする。

人生には、ときどきこんな日が
紛れ込むのかもしれない。

理由なんてわからない。

説明しようとすると、
かえってつまらなくなってしまう。

だから今夜は、考えるのをやめよう。

ただ、幸運だった。
それでいい。

外へ出ると、
雨に濡れた街の灯りがきらきらと揺れていた。

そして風さんがやってきた。
ねえ、風さん。
今日の私、ちょっと変だったでしょう。

行ったと思えば戻って、
閉じたと思えば開いて。
気がつけば私は、
一日中いくつもの不思議な扉をくぐっていた。

もしかしたら、
どこかに小さな金色の鍵でも
落ちていたのかな。

それとも風さん。
あなたがこっそり持っていた?

返事の代わりに、
風さんが私の髪をふわりと揺らした。

うふふ。
やっぱり教えてくれないのね。

それなら、
この不思議の答えは探さないでおこう。
今日という一日のポケットに、
小さな金色の鍵と一緒にしまっておけばいい。

そして明日の朝になったら、
またいつもの私に戻る。
……たぶんね。

ねえ風さん。
今日、私——不思議の国にでも
迷い込んでいたのかしら。

うふふ。


不思議なる
扉ひらけば
風わらう
幸運の鍵
胸にしまいて

— Morimura