朝のウォーキングでは、
ずっとミッドナイトブルーの物語を
追いかけていた。

『ノルウェイの森』の中で、
ミッドナイトブルーの
ワンピースをまとって現れた女性。

その一場面だけが、
なぜか遠い日の私の心に残り続けていた。

いつか私も、あんな世界に立ってみたい。
そう思ったことまで鮮やかに蘇ったのに、
オアシス時間を過ごしている今となっては、
そもそも何がきっかけで
あの記憶がポンと飛び出したのか、
もうわからない。

記憶とは不思議なもの。

必要なときになると、
自分から心の底を
抜け出してくるのかもしれない。

しかも今朝の記憶は、
懐かしさだけを残して
戻っていったわけではなかった。

今の私と重なり、
今の光を浴びて、
もう一度私の中で育ち始めている。

そう思うと、また胸が躍った。

お風呂を洗った。
おにぎりも作った。
今日は朝の分だけ。
お昼も晩も外になるだろうな。

そう思った途端、また、にやり。

洗濯もした。
今日は布団カバーまで洗った。
掃除をして、ゴミもまとめた。
あとはメイクをして着替えればいい。

今日は午前中に、
ずっと気になっていた
横浜駅での用事をまとめて片づける。
忘れてきたウィンドブレーカーを迎えに行く。
アイブロウサロンにも寄る。
時間があれば、
知らないポルタを探検してみよう。
ウォーキングの新しいユニフォームだって
見てみたい。

午前中は、いつもの私。
自分で考え、
自分で決め、
自分の足で次々と前へ進んでいく。

そして13時。
そこから私は、少し違う私へ移ろっていく。
自分で握っていた一日の地図をそっと畳み、
差し出された手を取る。
あとは、その手に導かれるまま。

その二人の私の間に、
もし少しだけ時間ができたなら、
コーヒーでも飲みながらぼんやりしていたい。

自分で歩く私から、心を委ねる私へ。
その境目を急いで飛び越えるのではなく、
ゆっくり、ゆっくり移ろっていきたい。
私は、そんな時間が好きなのだ。

もしかすると今朝、
心の奥から突然飛び出した
ミッドナイトブルーの記憶も、
神様のポケットに入っていた
今日のプレゼントだったのかもしれない。

遠い日の私は、
物語の中の女性に心を重ね、
いつか自分もそんな世界へ
行ってみたいと夢を見た。

今の私は、もう誰かになる必要はない。
私のままでいい。
ひとりで歩くこともできる。
そして、
ときには誰かの手を取ることもできる。

今日という一日の前半は、自分の足で。
そしてその先は、
未来の地図を少しだけ手放してみる。
どんな物語になるのかは、まだ知らない。

だからこそ、こんなにも胸が躍る。
心は今日も、まだ見ぬ時間へ移ろっている。