雨が、だんだん強くなってきた。

長袖のTシャツから出た手が冷たい。
袖にも雨が染み込み、
ひんやりと肌にまとわりつく。

それでも、不思議と嫌ではなかった。

そういえば雨の日には、
雨でいっぱい遊んだっけ。

「あの服、ちょっと弾けすぎじゃない?」
そんなことを言われて、
「たまにはいいでしょ。弾けてね」
なんて笑い合ったこともあった。

日記を通して私を知ってくださった方とは、
初めて逢った瞬間から、
どこか心が通じ合っているような
ときめきを感じることがある。

言葉って不思議。

私が今魅ているもの。
感じているもの。
心にふっと浮かんだ、ほんの些細なこと。

それを言葉に乗せて放つと、
風さんが
どこかへ運んでくれるような気がする。

だから私は、これからも言葉にしていきたい。

時々思う。

私、仕事をしに来ているのかな。
それとも、語りに来ているのかな。

ふふっ。

そんなことを考えながら歩いていると、
久しぶりに朝そばのお店の前を通った。

外に行列はない。
でも中はいっぱい。
きっと、この朝そばを食べることが
一日の始まりになっている人もいるのだろう。

私にも、そんな時があった。
でも、そば、そば、そば——と走りすぎて、
お腹の方がついてこなくなった。
だから朝そば時間はいったん手放した。

今日は久しぶりに食べてもいいかな。
そう思ったところで気づく。

あ。
現金、持ってない。
ここ、現金だけだった。
残念。

その頃には雨がさらに強くなっていた。
細かな雫が
スマホの画面いっぱいに張りついて、
朝の光を拾いながら、
七色にきらきらしている。
なんだか、
キラキラのシールでスマホを
デコっているみたい。
ちょっと恥ずかしくなっちゃうような乙女仕様。

でも、今朝ならそれもいい。
手も冷たい。
濡れた袖も冷たい。
それでも心は温かい。
まあ、濡れてもいいか。
お部屋へ帰れば、お風呂に入ればいいだけ。

もっとも今日からは、
お部屋も満員御礼。
今までのように、
いつでも好きな時間にお風呂へ——
とはいかないかもしれない。
ちょっと憂鬱。

でも、バッティングしたら待てばいい。
それも今日の私。

そして頭の片隅には、
もう仕事が顔を出していた。
新しく動き始めた案件は——蟹。
まだ夏の名残を感じながら、
小さな秋を拾って歩いているというのに、
仕事の世界ではもう冬の味覚。

そういえば、
クリスマスケーキやディナーショーの
仕事だってあった。
なんだか不思議。

今の私は、夏の名残と秋の入口にいる。
目は小さな秋を見つけ、
仕事では冬を魅つめ、
もう少しすれば新春を思い、
その向こうには、また春の光が待っている。

以前なら少し嫌だった。
そんなに先へ先へ行かないで。
一年があっという間に終わっちゃうじゃない。

でも今は、少し違う。
私は一年を急いでいるのではない。
いろんな時空を旅している。

夏の名残。
秋の訪れ。
遥か先の冬。
新春。
そして春の光。

白い心を舞台に、
私の四季がくるくると踊っている。
清楚に白一色なんて、
やっぱり私には無理みたい。

秋の匂いも、
秋の味覚も、
冬の蟹も、
クリスマスも、
まだ見ぬ春も。

美しいものも、
美味しいものも、
これから逢う人も。

みんな白い舞台へ上がってきて、
好きな色を置いていけばいい。
そんなことを考えながら歩いていたら——
私のゴールに着いた。

そして、不思議なことに。

あれほど降っていた雨が、ぴたりと止んだ。

「あら」思わず空を見上げた。
朝にはグレースケールをまとっていた空が、
今はなんだか
真っ白に輝いているように魅える。

太陽の姿は見えない。
それなのに私の心には、
ピンクゴールドの光がちゃんと差していた。

さあ。私のオアシス時間を始めよう。
そして午後からは——

今度は、この真っ白な心を
色とりどりの鮮やかな色で
染めてくれるような出逢いを楽しもう。

どんな色がやってきてもいい。
どんなときめきが飛び込んできてもいい。
今朝、白へ還ったばかりのこの心で、
まっすぐ受け取ればいい。

無垢な心のまま。

今日という一日は、まだ始まったばかり。
白い舞台の幕は、まだ下りてはいない。