真っ白な、ふわふわの犬から始まった朝。
たったひとつの白から、
私はずいぶん遠くまで旅をした。
白無垢の心になり、
空を見上げ、
四神に逢い、
世阿弥へと時を遡り、
遠い昔の私へ。
そして空色の手帳を開けば、
そこには拾い集めてきた
たくさんの言葉があった。
さらに心は時を駆ける。
夏の名残から秋へ。
秋から冬へ。
新春を越え、
まだ見ぬ春の光へ。
朝からいったい、
どれほどの旅をしたのだろう。
でも、その間の私はといえば——
お風呂に入り、
お風呂を洗い、
おにぎりを作り、
洗濯機を回し、
洗濯物を干し、
ご飯を食べ、
メイクをする。
ふふっ。
身体はなんとも現実的な朝を生きているのに、
心だけはずっと旅を続けている。
この横浜ステイで私が好きなのは、
きっとこんな時間なのだ。
限られた時間を、
誰かの時間ではなく、
自分の時間として、
自分の呼吸でゆっくり使える。
最近、時々わからなくなる。
私はここへ仕事をしに来ているのだろうか。
それとも、
朝という時間を思う存分生きるために
来ているのだろうか。
でも、きっとどちらも私。
逢瀬の中で生まれるときめきがある。
群青の世界がある。
心の奥には深紅の光が灯る。
そんな色を知っているからこそ、
朝になれば空や風や花の小さな変化まで、
心いっぱいに
受け取ることができるのかもしれない。
そして朝に心をいっぱい開いているからこそ、
誰かに逢ったとき、
その人の思いにも
柔らかな心で触れることができる。
そう考えれば、朝と逢瀬は別々ではない。
逢瀬で色を受け取り、
朝、その色を心に響かせ、
言葉にして、また白へ還る。
そして白くなった心で、
また新しい色に逢いにいく。
その繰り返し。
だから昨夜、
若様の扉を開けなかったのかもしれない。
ほんの少しだけ、と思った。
でも眠った。
心のどこかで知っていたのだろう。
夜をもう少し楽しむことより、
明日の朝、
心のままに歩ける自分でいたい、と。
そんな日々を重ねていると、
心が洗われ、磨かれ、
感性まで少しずつ
研ぎ澄まされていくような気がする。
心のリハビリ?違うな。
心のトレーニング?それもちょっと違う。
もっと自由で、もっと軽い。
そう——心、天空を舞う。
薄衣を一枚まとったような心が、
扉を大きく開けて天空へ飛び立つ。
風に乗り、舞い、駆ける。
心のままに感じ、
心のままに響き、
心のままに言葉へ乗せる。
すると、ひとつの風景から次の風景が生まれ、
ひとつの言葉から遠い記憶が目を覚ます。
それらがくるくると私の中を巡っていく。
まるで、天空の舞。
……なんて、また心を天空へ飛ばしていたら、
肝心なことを忘れそう。
そうだった。
メールをチェックしなくちゃ。
そして台風のことも気になる。
予定どおり帰れれば嬉しい。
でも少しくらい遅れたって大丈夫。
帰る場所は逃げない。
今できることをして、
あとはその時に考えればいい。
さて。
メイクもした。
洗濯も終わった。
あとは着替えるだけ。
それでも、まだ少し時間がある。
そうなると——昨夜、
閉じてしまった扉が気になってくる。
鬼の若様。
今朝は白に始まり、
四神と空を駆け、世阿弥にまで逢ってきた。
そろそろ、あなたにも逢いにいこうかな。
そっと扉を開ける。
「私だけを愛してくれる?」
「ああ。お前だけを愛そう。俺の花嫁」
キャーン!
せっかく白へ還ったばかりなのに。
若様ったら——もう私の心を、
深紅に染めにきた。
白き朝
心ほどけて
空を舞う
色をまといて
今日を歩まん
— Morimura
心、天空を舞う✨
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