30分だけのつもりだった。
ほんの30分だけ。
ちょっとだけ鬼の若様の扉を開けて、
それからゆっくり眠ろうと思っていた。
けれど、いざ扉を開けてしまったら——
だめだった。
心はあっという間に若様の世界へ。
若様、若様。
そう思いながらページをスライドする。
ひとつ進むたびにドキドキして、
またひとつ進むたびに胸がキュンとする。
そして、ふと時刻を見た。
13時11分。
「やっちゃった……」
30分のつもりが、もう1時間半。
せっかく今日は
ゆっくり眠ろうと思っていたのに。
身体を休めるはずの時間を、
私は若様にすっかり差し出してしまっていた。
でも、好きなんだから仕方ない。
そう思ったら自分でも可笑しくなって、
ちょっとだけ外の空気を吸いに出た。
雨は上がっていた。
すると、ちょうど私のそばへ、
ふわりと風さんが降りてきた。
「ねえ、風さん。
私も好きよねえ。
30分だけって言ってたのよ」
風さんが呆れたように笑った気がした。
だって、いつでも読めるのだ。
コミックだって買い始めたし、
もしかしたら、
もうひと通り
全部揃えてしまったのかもしれない。
読みたければ、いつだって若様に逢える。
それなのに——なぜだろう。
今しかない。
そんな気がしてしまう。
時計を見る。
あと17分。
「13時半まで。あとちょっとだけね」
自分に言い聞かせているのか、
風さんに言い訳しているのか、
もうよく分からない。
14時には絶対に眠ろう。
それならまだ1時間半は眠れる。
だから、あとちょっとだけ。
本当に、あとちょっとだけ。
「じゃあ風さん、
私、もう一度若様に逢ってくるわね」
そして16時少し前になったら、
またここへ戻ってくる。
そのときは一緒に大通り公園の方へ
歩いていこう。
今は雨が上がっている。
その頃も、
このまま雨が降らずにいてくれたらいいね。
そう風さんに告げて、
私は再び扉の向こうへ戻っていく。
鬼の若様が待つ世界へ。
あとちょっとだけ。
——たぶん。
若様の
扉ひらけば
時ほどけ
あと少しだけ
風に言い訳
— Morimura
若様の扉、時をさらう✨
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