また、鬼の若様の扉を開いてしまった。

若様の世界にどっぷり浸かり、
ひとりニヤニヤしながらページをめくる。
ふと時計を見ると、
14時まではもう少し。

もう少しだけ。
あと少しだけ。

そう思っていたところへ、
突然メールの着信音が鳴った。
お仕事が入ったらしい。
16時からのご予約の、その前に。

「ああ、やっぱり寝ておけばよかったかな」
少し後悔しながら支度をして外へ出ると、
雨は上がっていた。

「風さん、私ってバカよね。
やっぱり寝ておけばよかったわ」
——いいんじゃないの。
心はキュンキュン、
ドキドキしていたんでしょ。

「そうなの。
でも頭はぼーっとしてる。
寝不足でぼーっとしているのか、
若様の魅力にぼーっとしているのか、
もう分からない」

それでも、あと少しで読み終わる。
だから夕方、
ほんのちょっとだけ、
また扉を開けて
若様に逢いにいこうと思っている。

——あなたも好きね。
「そうなの。
夢中になるのが私の悪い癖なのかな」

思えば、私はいつだって何かに夢中になる。
ショートドラマに夢中になり、
音楽に夢中になり、
そして今は鬼の若様。
熱が過ぎれば、
あれほど必要だったものさえ
いつの間にか遠ざかっていく。
それもまた私らしい。

その点、デジタルコミックは便利だ。
もしかしたら大好きな名探偵コナンも、
ゴルゴ13もあるのかもしれない。
「今度時間があるとき、
また別の扉を開けてもいいかな。
ね、風さん」

——もう、あなたの好きにしたら。
呆れたような風さんが、
ふわりと風を吹きつけ、
どこかへ飛んでいった。

そして——
今日の最初のドアが開きました。
そこには、
久しぶりに逢うあなたの優しい笑顔。

「まあ、お久しぶり。
あれ? 今日、平日なのに珍しいね」
「何言ってるんだよ。今日は土曜日だよ」
「あ、そうだった」
思わず笑ってしまった。

休みなく動いていると、
曜日の感覚までどこかへ飛んでいくらしい。
久しぶりに逢えたことを喜び合い、
抱きしめ合った。

あなたの胸の鼓動が少しずつ変わっていく。
その音を感じられることが、
なんだかとても嬉しかった。

あなたとは、いつも自然だ。
取り留めのない話をして、
笑って、
そっと触れ合って、
また話す。

一緒にいると時間を忘れてしまう。

そして今日は、
あなたの腕に抱かれたとき、
いつも以上にその胸がたくましく感じられた。
思わず顔をうずめて甘えてしまう。

「もしかして最近、何か鍛えてる?」
「ジムに行ってるよ」
「やっぱりね」
今日のあなたは、
どこかいつも以上に
男性らしい色気があって魅力的だった。

「筋トレすると男性の魅了が上がるみたいよ」
そんなことを言って、また二人で笑う。

若様の魅力にぼーっとしていたはずの午後。
けれど現実の扉の向こうにも、
ちゃんと心をときめかせてくれる
温もりが待っていた。

夢中になって、笑って、甘えて。
どうやら私は、
いくつもの扉を開けながら生きているらしい。
またあなたに逢える日を、
楽しみにしていますね!


若様の
扉を閉じて
逢う人の
胸に聞こえる
午後のときめき

— Morimura