初心に返る。
初心に戻る。
初心に立ち返る。
新しい役に就くとき、
新しい仕事を任されたとき、
よく耳にする言葉だ。
けれど私は、ずっと考えていた。
初心に返るとは、
いったいどこへ帰ることなのだろう。
前任者が残したものを引き継ぎ、
その上をなぞる。
新しいプロジェクトが始まれば、
前回の資料を引っ張り出し、
その延長線上から考える。
もちろん、それもひとつの方法なのだと思う。
けれど私は、
昔からそれがあまり好きではなかった。
新しい役に就いたとき。
新しいプロジェクトを任されたとき。
私は一度、すべてを白紙に戻す。
前はどうだったのか。
誰がどうしていたのか。
それを最初の答えにはしない。
まず、自分は何をしたいのか。
何を描きたいのか。
その先に、どんな景色を見たいのか。
何も描かれていない
一枚の白い紙を目の前に置いて、
そこから自分の想像の世界を描き始める。
そう考えたとき、ようやく気づいた。
私にとっての初心とは、
白に還ることなのだ。
今朝、私は「白」に還った。
そして一日を過ごしながら、
自分の初心を辿っていった。
遠い昔、テニスコートでボールを拾い、
コートを整え、ひたすら素振りを繰り返した。
華やかにボールを打つことより先に、
身体に叩き込まれた基礎と基本。
大人になってゴルフを始めたときも同じだった。7番アイアン一本。
握り方から始め、
何度も素振りをして、
何度もボールを打った。
そこでまた私は、基本へ帰った。
だから仕事でも変わらない。
いきなり小手先の戦術から入らない。
まず、自分のコンセプトを持つ。
そこから戦略を固める。
そして最後に戦術を練る。
土台を作ってから、
その上に自分の世界を描いていく。
それがいつの間にか、
私の仕事の流儀になっていた。
けれど今日、
もうひとつ気づいたことがある。
私が帰ってきた「白」は、昔の白とは違う。
駆け出しの頃の私は、本当に真っ白だった。
何も知らない白。
何も持っていない白。
けれど、いろんな仕事をして、
人と出逢い、
成功も失敗も重ね、
そのたびに私は白紙へ戻ってきた。
白紙に戻るたびに、また一から考えた。
そして、また描いた。
その繰り返しの中で、
不思議なことに気づく。
同じ白へ還っているはずなのに、
白が少しずつ違っている。
経験を重ねれば重ねるほど、
白が深くなっているのだ。
白なのに、深い。
白なのに、
そこには今まで歩いてきた時間がある。
何も描かれていないのに、
その奥には、
失敗した日の悔しさも、
やり遂げた日の喜びも、
人から教えてもらったことも、
自分でつかみ取ったものも、
すべてが静かに息づいている。
だから、白紙に戻るということは、
過去を捨てることではない。
積み重ねたものを
すべて自分の中に持ったまま、
もう一度、自由になること。
それが私の初心なのだと思う。
初心とは、昔の自分に戻ることではない。
何度でも白に還り、
そこから今の自分で、
新しい一筆を入れること。
だから今日も私は白に還る。
昨日までの線に縛られず、
誰かが描いた線をなぞらず、
自分の手で最初の一筆を入れるために。
そして、これから経験を重ねるたびに、
私の白はもっと深くなっていくのだろう。
真っ白だった白から、
時を重ねた白へ。
何度還っても、同じ白ではない。
それでいい。
いや、きっとそれこそが——私の初心。
白に還り
重ねし時を
胸に抱き
また一筆を
今日より描く
— Morimura
一筆入魂|初心 ―白に還る
勃つねで応援-
-
共有で応援