18時から、
私はすっかり若様の世界に入り込んでいた。

あの青い炎。
画面いっぱいに広がるその色を見るたび、
私の心まで群青に染まっていく。

やっぱり好きだなあ、この世界。

強くて、凛としていて、
どこか近寄りがたいのに、
花嫁に向ける眼差しだけは驚くほど優しい。

その落差に、また胸がきゅんとなる。

そして私は、
まだ続いている物語を追いかけながら、
なぜかもう一度、
最初の出逢いへ戻りたくなった。

二人がこれからどこへ辿り着くのか、
私はまだ知らない。
だからこそ、
もう一度始まりを
見たくなったのかもしれない。

ここからだったんだ。
この人が、たった一人を見つけたのは。

そう思いながら最初の出逢いを見つめ直すと、
初めて読んだときとは違うところで胸が騒ぐ。
私だけを見てくれる人。
大勢の中の一人ではなく、
代わりのきかない、たった一人。

選んだら迷わない。
誰かと比べることもしない。
その人の弱さも、
不器用さも、
傷ついた心も丸ごと抱きしめて、

それでも「お前がいい」と言う。

「ああ、お前だけを愛そう。俺の花嫁」

——キャー。
いいわあ、若様!

たったひと言なのに、
どうしてこんなに胸に響くのだろう。

たぶん私は、
「愛される」という言葉そのものより、
選び続けてもらえることに
惹かれるのだと思う。

一瞬だけ激しく燃え上がる炎ではなく、
何があっても消えずに、
その人だけを照らし続ける炎。

だから若様の炎は、
赤ではなく青なのかもしれない。

静かで、深くて、揺るがない。

そして、その青が深くなればなるほど、
私の大好きな群青へと近づいていく。

強さの中に優しさがあって、
冷たく見えるほど澄んだ色の奥に、
たった一人へ向けた熱がある。

ああ、だから私は群青の世界に
こんなにも惹かれるのか。

そして、ふと思う。

私が若様にときめいているのは、
若様だけを見ているからでは
ないのかもしれない。

その青い炎に照らされながら、
私は自分の心を魅ている。

誰かを好きになること。
何かに夢中になること。
胸の奥がきゅっとして、
理由もなく嬉しくなること。

そんな心は、
いくつになってもちゃんと私の中にある。
それが、なんだか嬉しい。

若様のひと言にキャーと声を上げ、
花嫁を見る眼差しに胸をときめかせ、
群青の世界に吸い込まれていく。

そのたびに、
眠っていた何かが小さく目を覚ます。

ああ、私、
まだこんなにときめけるんだ。

心というものは不思議だ。
時間を重ねれば、
もっと静かになっていくものだと思っていた。

けれど違うのかもしれない。
心は古くならない。

好きなものに出逢えば、
ちゃんと揺れる。
ちゃんと熱くなる。
そして、ときには少女のように、
何のためらいもなく胸を弾ませる。

そう思ったら、
若様にときめいている自分まで
少し愛おしくなった。

それでも——
花嫁を魅つめるあの眼差しを見ると、
そんなことを考えていた私も
どこかへ飛んでいく。

キャー、若様!やっぱり素敵。

そんなふうに群青の世界で
ドキドキしていたら

——ふと、我に返った。

あれ?

時計を見る。

20時。

……えっ?いつの間に。

どうやら私は2時間もの間、
こちらの世界から完全に姿を消していたらしい。

若様の青い炎に包まれて、
群青の世界を漂っていた2時間。

物語の結末は、まだ知らない。

だから、いい。

この先どんな世界が待っているのか、
若様と花嫁を追いかけながら、
私もまだ知らない続きを一緒に歩いていける。

そして現実へ帰ってきた今も、
胸の奥には小さな青い炎が揺れている。

若様が灯したのか。

それとも、
もともと私の中にあった炎を
若様が見つけてくれただけなのか。

まあ、どちらでもいい。
今夜、確かに私の心は動いた。
それだけで、なんだかいい夜だ。

そして——やっぱり、いいわあ。

若様。

青い炎、取扱注意。
——消火不能。

— Morimura