目が覚めたのは21時20分だった。

どうやらアイマスクをつけて、
すぐに眠ってしまったらしい。

眠っていたのは1時間ほど。
でも寝転んでいたのは3時間。
むくっと起き上がると、
腰が痛くて痛くて仕方がない。
やっぱり座椅子で寝るのはよろしくないな。

少し身体を動かした方がいいかもしれない。

そう思って、夜風に当たりに外へ出た。
待機している時や眠っている時は、
コンタクトレンズを外している。
だから、
こんなふうにふらりと
外の空気に当たりたくなった時は、
いつも裸眼のまま。

私の目には、
人の顔も街の細かな輪郭もほとんど見えない。
人がいることはわかる。
信号の色もわかる。
それ以外は、
何もかもがぼんやりと滲んだ世界。

でも、風はちゃんとわかる。
気持ちいい。
台風が近づいているから、
もっと風が強くて
雨も激しいのかと思っていたけれど、
今のところは穏やかだった。

これなら中にいるより、
外にいる方が気持ちいいかもしれない。

コンビニにも寄ってみた。
もちろん商品はよく見えない。
でも何度も来ているコンビニだから、
どの辺りに何が置いてあるかは
なんとなく覚えている。

欲しいものを手に取って、
目の前までぐっと近づける。
商品が突然ドーンと視界いっぱいに現れると、
ぼけていた頭までハッと目を覚ます。

待機しているはずなのに。
こんなにのんびりした時間は
久しぶりかもしれない。
いつもなら、
「あ、日記を書かなきゃ」
「続きを書かなきゃ」
と、出勤してからもずっと
日記の世界に没頭していた。

だから、こんな何も急がない夜も悪くない。

夜の帳は、とっくに降りているはずだった。

けれど裸眼の私が空を仰ぐと、
不思議なことに暗闇の中に
白銀と青の光が滲んで見えた。

なんだか空が明るい。

白銀の大きな龍と、
青い炎を纏った鬼の若様が相まみえた、
あの場面。

もしかして、
まだその余韻の中にいるのかしら。

……また若様のところへ行こうとしている。
寝ても若様。
目が覚めても若様。
今日はまるで漫画の世界に
すっかり心を奪われた少女のよう。

これでは鬼の若様の推し活だわ。
たまには、こんな夜もいい。

お店の建物の裏側あたりだろうか。
建物の段差に腰を下ろして日記を書き始めた。

ここに座って、
こんな時間に日記を書くのは本当に久しぶり。

風さん、そう思わない?
なんだか懐かしいね。

背中にはビルの壁がごつりと当たる。
その冷たさが妙に心地よくて、
座椅子に合わせて
くねくねになっていた背中を、
すっと伸ばした。

そして、もう一度天を仰ぐ。

ぼやけた目の向こうには、
白銀と青の光に照らされた夜空。

その中に、
うっすらとピンクや朱色まで感じられた。

きっと私の心が、朝へ戻っているのだろう。

朝に見た朱雀の朱。
青龍の青。
白虎を思わせる白銀を纏った龍。

あれ。
黒がない。

そう思った瞬間、気づいた。
玄武は、とっくにそこにいた。

夜の帳そのものが、玄武の黒だった。

空に四神が揃った。

そして、そのすべてを包むように、
うっすらと金色の光まで
闇の中に滲んでいるように見えた。

やっぱり私、
今日一日、
四神に守られていたのね。

そして、これから朝へ向かって、

私の心はまた白に還る。

初心に返る。

でも、明日の白は、
今日の残念だった気持ちまで
漂白して真っ白にする白ではない。

今日という一日を、
丸ごと受け入れた上で生まれる白。

今朝とまったく同じ白ではない。

朱も、青も、白銀も、黒も。
ときめきも、眠りも、
少し残念だった気持ちも。
そして、
この何も起こらない静かな時間さえも。

全部が今日の私を通り抜けて、
明日の白へ重なってゆく。

だからきっと、
今朝よりも少し色濃く、深い白。

そう思いながら夜空を魅つめていたら――

ぽつり。
また雨が降り出した。

今度は、本降りになりそうな雨。
そろそろ戻ろう。
こんな雨に濡れたら、
きっとずぶ濡れになってしまうから。

立ち上がって、
ひんやりした壁から背中を離す。

あと、1時間半……。

今日という一日は、まだ終わっていない。


朱を抱き
青を重ねて
夜は黒
すべてを溶かし
白へ帰らむ

— Morimura