13時半を少し過ぎた頃から、
ちょうど1時間ほど眠ったのだろうか。

お店から届いたメールの着信音で目が覚めた。

ふと自然に目覚めたわけでもない。
腰が痛くて勝手に起こされたわけでもない。
お仕事の連絡で目が覚めた。

結局、一番嬉しいもので目を覚ましたわけね。 

少し可笑しくなりながら外に出ると、
雨はしとしとと降り続いていた。

きっと私が眠っているあいだも、
こんなふうに静かに降り続けていたのだろう。

大通り公園の緑の木々は、
雨をたっぷり含み、
いつもより艶っぽく見えた。

光を浴びてきらきらと輝く緑も美しい。
けれど私は、
雨に濡れ、
しっかりと潤い、
色濃く深く輝く葉のほうに、
どこか粋な美しさを感じる。

ふと思った。

陽の光を浴び、
眩しいほどきらきらと輝いている姿が
舞妓さんなら、
雨をまとい、
しっとりと艶を深めている姿は芸妓さん。

その舞にも、
初々しい華やかさと、
しなだれかかるような艶っぽさの違いがある。

私はやっぱり、
芸妓さんの舞のほうが好きだな。
男性はどうなんでしょうね。

そんなことを考えながら歩いていると、
また、あのおうおうしい
クスノキが目に入った。

いつもなら堂々と立っているその姿が、
今日は少し違って見えた。
幹も葉も雨に濡れ、
まるで息子のことを思いながら、
声を上げることなく
静かに涙しているようだった。

その姿は、なぜかもののあはれを誘った。

同じ雨なのに、
木々に落ちれば艶となり、
クスノキに落ちれば涙になる。

そんな雨の中を、私はホテルへと向かった。

そして、最初のドアが開きました。
そこには、
私を優しく包み込んでくださるような、
あなたの温かな笑顔があった。

「わあ、嬉しい。昨日も逢えたし、
今日も逢えた。
時間を作ってくれてありがとう」
そう言うと、
あなたはにっこり微笑んだ。
「約束したからね」
その一言が嬉しかった。

昨日、
「もし明日も時間があれば逢いに来るよ」
と言ってくださったあなた。
私はきっと、
心のどこかで
今日を楽しみに待っていたのだと思う。
だから、本当に逢えたことが
余計に嬉しかった。

いつものように抱きしめ合う。
胸の鼓動を感じながら、
その温もりに包まれている瞬間が、
とても幸せだった。

あなたに触れられ、包まれること。
そして私からあなたへ届けたものを、
あなたも嬉しそうに受け取ってくださること。
そんなあなたのお顔を魅ていることさえ、
私の喜びになっていた。

ただ、あなたのそばにいられることが
嬉しかった。

もっと一緒にいたい。

そんな気持ちもあったけれど、
あまりわがままを言ってはいけないわね。

私たちはいろいろな話をした。
次から次へと会話が飛び交い、
一緒に笑っているうちに、
時間は驚くほど早く過ぎていった。

「今日はありがとう。嬉しかった」
「僕もだよ」

あなたはまた、
あの優しい笑顔を魅せてくださった。

「また待っていますね」
そう言って、今日の最初のドアを閉じた。

外へ出ると、雨はまだ少し降っていた。
けれど、不思議だった。

雨に濡れた木々を艶っぽいと思った私も、
クスノキの雨を涙のように感じた私も、
今はもう、雨を冷たいとは思わなかった。

あなたにいっぱい包まれて、
いっぱい抱きしめられて、
その温もりがまだ私の中に残っていたから。

雨はまだ、しとしとと降っている。
それでも私の心の中には、
小さな陽だまりができていた。


雨しずく
艶をまといて
葉は深く
抱かれし胸に
陽だまり残る

— Morimura