鬼の若様の青い世界へ入る間もなく、
まぶたが落ちた。
ほんの少しだけ。
そう思っていたのに、
目を開ければ40分ほど眠っていたらしい。
23時40分。
アラームの音に起こされた。
お仕事がなければ
23時50分には上がるつもりだったから、
残された10分は、
今日の私がいた場所を片づけるための時間。
ところが、
まだ半分夢の中にいたのだろうか。
コンタクトレンズが、どうしても入らない。
右も左も、するりと逃げる。
こんなこと、珍しい。
結局、それだけで4分ほど使ってしまった。
目が疲れていたのか。
それとも、ただ寝ぼけていただけなのか。
最近はコンタクトを外している時間が
長いせいか、
目薬をさす回数も少なくなった気がする。
それって、目にはいいことよね。
……でも。
コンタクトを外している時間が
長いということは、
待機している時間も長いということ?
あら。
そこまで考えると、ちょっと複雑。
でも今日は、
それもひっくるめて私の一日。
心に響いたこと。
ときめいたこと。
温めていただいたこと。
喜んだこと。
弾けたこと。
ひとつ、またひとつ。
心に落ちた小さな色が波紋のように広がって、
重なって、
また違う色を生んでいった。
雨はまだ止んでいなかった。
けれど傘はいらないほどの小雨。
伊勢佐木モールをまっすぐ歩き、
お部屋へ向かう。
いつものウォーキングで
ストレッチをする場所まで来たとき、
なぜだろう。
ふと振り返った。
そして、空を見上げた。
建物と建物のあいだから、
ほんの少しだけ見える、私の小さな空。
真っ暗ではなかった。
夜の帷の、そのもっと奥。
いくつもの色を幾重にも重ねたような光が、
静かに息をしていた。
きらきら、ではない。
もっと深いところから、
限りある世界を静かに奏でているような光。
そして、その上には薄い光のヴェール。
ああ。
もしかしたら、
あの空も纏っているのかもしれない。
今日、クスノキを見上げた私が纏っていた、
銀の糸で織られたような衣を。
銀の糸。
それは今日、雨の中で私が魅つけたもの。
潤い。
涙。
粋。
侘び寂び。
もののあはれ。
遠い昔から、人が心の中で
そっと抱き続けてきたもの。
それらが一本一本、銀の糸になって、
夜の空を覆っている。
だから、光っていたのだ。
太陽に照らされて輝くのではない。
内側に抱いた色が、
自ら光を放つように。
今日という一日の最後に、
私はもう一度、
雨の風情を見た。
そして思った。
あの空の、
ずっと、ずっと奥深いところでは、
もう明日のための
心ならしが始まっている。
ならして。
ならして。
ならして。
今日、心に生まれた色を消すのではなく、
なめらかにして、
ゆっくりとなじませて、
もっと深いところへしみ込ませていく。
そして私は、
また白へ還っていく。
でも、明日の白は、
今朝の白ではない。
今日のときめきも、
涙も、
喜びも、
雨の潤いも、
銀の光も。
いくつもの色を重ね、
すべてを心の奥に抱いたあとの白。
白紙に戻るのではない。
色を生きたからこそ、
還ることのできる白。
きっと明日の私は、
今日より少しだけ深い白を纏っている。
銀の雨
心に色を
重ねゆき
すべてを抱いて
白へまた還る
— Morimura
番外編|心遊び 「銀の雨、白へ還る」
勃つねで応援-
-
共有で応援