昨夜、眠りにつく直前まで、
私は群青の世界にいた。

玲夜の青い炎。
そして、
玲夜が大切な花嫁を守るためにつくった
小鬼ちゃん。

あの小さな身体から放たれる炎は、
いったい何色なのだろう。
玲夜と同じ群青なのだろうか。
それとも、玲夜より少し淡い青なのだろうか。

そんなことを考えながら、
いつの間にか眠っていた。

4時45分、アラームが鳴る前に目を覚ました。

出かける支度をしながら、
5時にテレビをつける。

久しぶりに目にした朝の星占い。
私の星座は、は第4位。
そして告げられたラッキーカラーは――
群青色。
思わず心の中で笑った。

あら、若様。

まだ私を群青の世界から帰してくれないのね。

5時12分、お部屋を出た。

台風の影響で、外はすでに雨。

それでも今日は、
今回の横浜ステイ最後の朝歩き。

雨にも負けず。
風にも負けず。
台風にも負けず。

そうつぶやきながら歩き始めた。

まず目に入ったのは、雨に濡れためぐり木。
モチおじさんの濃い緑。
なぞちゃんの淡い緑。

雨を纏った葉はしっとりと艶めき、
風に揺れながら朝の光を返していた。
そのとき気づいた。

昨日から心ならしを続けてきた、
私の小さな空。

昨日はまだ、
奥深いところから
銀の布を纏ったような光が滲み、
ほんの少し橙の名残もあった。

けれど今朝は、
もうほとんど白へ変わっている。

ただ、昨日の白とは違う。

一歩進んだ白。

一段階深くなった白。

何もない白ではない。

いろんな色を知り、
いろんな思いを通り抜けたからこそ
生まれた白。

その白へ、

今朝最初に重なったのは、
昨夜から持ち越した
群青だったのかもしれない。

そして、モチおじさんの濃い緑。
なぞちゃんの淡い緑。

白い心へ、少しずつ色が戻ってくる。

そのとき、風さんがやってきた。
「おはよう。」
おはよう。
やっぱり今日も来てくれたのね。

ふと思った。

ねえ、風さん。


あなたは何色なの?

風は感じる。
でも、色は見えない。
白なのか。
雲のような薄い灰色なのか。
考えているうちに、
ひとつの色が浮かんだ。

透明。

そう。

風さんはきっと、透明なのだ。

透明だから、私の心にある色を邪魔しない。
群青の上に重なっても群青のまま。
濃い緑も、淡い緑も、そのまま。
まるで印刷された色の上へ、
透明なラミネートシートを
そっと重ねるように。

色を変えず、
消しもせず、
ただ艶を与え、
その色を少しだけ鮮やかにしてくれる。

「そうじゃない? 風さん」
「うーん、わからないけど、
あなたがそう思うんだったら、そうだよ」

そして風さんは、
こんなことを言ったような気がした。
「だって僕は、あなたの心が
創り出してているんだから」

そうね。だからあなたは、
どんな色にもなれるのかもしれない。

いいえ、色を持たないからこそ、
どんな色の私とも
一緒にいられるのかもしれない。

昨夜から続く群青。
雨に濡れた二つの緑。
そして、風さんの透明。

白くなった私の心は、
何もなくなったのではなかった。

新しい色を迎えるための余白ができたのだ。

そう思ったら、雨の朝なのに心が軽くなった。

白は終わりの色ではない。
きっと、
次の色が生まれるための色なのだ。