午前4時15分。
まだ夜の名残を抱いた街へ出た。

昨夜の雨は、
モチオジさんとなぞちゃんの葉の一枚一枚に、
小さなしずくとなって残っていた。 

その潤いを見ていると、
地面の奥から吸い上げた生命が、
葉の表までじわりと
滲み出しているように思えた。

「風さん、おはよう」
今日はちゃんと、最初から気づいた。
すると風さんが、
少し嬉しそうに笑ったような気がした。

「今日は顔が輝いてるね」
そうなの。
今日は、お楽しみがあるの。


空はまだ群青。
けれど、その下の方から、
ピンクゴールドの光が
じわじわと滲み始めていた。

昨日はいろんな扉を開いた。
シンデレラにもなった。
いつもの私から少し外れて、
いろんな私になって遊んだ。
そんな心は、群青の世界を通って、
白へと還り、

今、その余白に
新しい朝の光を迎えようとしている。

馬車道へ入った。

昨日の朝、魔法にかけられて、
かぼちゃの馬車に乗ったのは
このあたりだっただろうか。

そう思った途端、

心はまた明治の時代へ飛んでいった。

この道を歩いた人たちは、
どんな服を着て、
どんな言葉を交わし、
どんな夢を見ていたのだろう。

関内という地名。
日本大通り。
関所があったという話。
知らなかったことが、
ひとつ気になると、
その向こうにまたひとつ扉が現れる。

知りたい。
もっと見たい。
もっと、その奥まで行ってみたい。

今日はなぜか歩く速さが遅かった。
いつものようにサクサク歩くのではなく、
街の空気をいっぱい吸い込みたかった。

今ここに流れている空気だけではなく、
この場所を生きた人たちが吸っていた、
過去の空気まで。

雨に濡れた馬車道の路面は、
鏡のように光っていた。

その光の中に、

明治モダン。
大正ロマン。
昭和レトロ。

いくつもの時代が重なり、
人と人とのつながりや、
暮らしの温度まで
映り込んでいるように魅えた。

振り向けば、港の空。
群青の世界に、
ピンクゴールドの朝が差し込んでくる。

左には観覧車とランドマーク。
右には、これから始まる朝の光。

新しい街の中に、
過去の人々の願いが流れている。

そう思うと、この馬車道という道は、
ただの通りではなく、
夢の扉を開く道なのだと思った。

そして私は、やっと気づいた。
私は旅が好きなのだ。

ただ場所から場所へ移動する旅ではなく、
心の旅。

点だけを見るのではなく、
ひとつの点から次の点へ、
興味や疑問をつなぎながら進んでいく旅。
点から線への旅。

それは、少し冒険に似ている。
探検にも似ている。

気になる。
知りたい。
わかりたい。

そんな子どものような欲ばりな心を、
大人になった今の私が、
歩くことで叶えている。

だから今朝の私は、
少しだけ探検隊のつもりで歩いていた。
風さんと一緒に。時代の風を感じながら、
その風の中に残る香りや空気をたどりながら。

そして、馬車道の終わりに立ったとき、
15分ほどの魔法は静かにほどけた。

けれど、夢は消えなかった。
夢は今度、
もっと遠くへ行くための
好奇心に変わっていた。

今日もきっと、
この街のどこかに新しい扉がある。
私はそれを探しに行く。

時を超えた、心の旅へ。

馬車道に
時代の風を
吸い込みて
点より線へ
心旅立つ

— Morimura