夜中に、
日記をアップし忘れていたことを思い出した。

それだけのことだった。
ほんの少しベランダに出て、
空を魅て、
それから戻るつもりだった。

けれど、
そこには、
思いがけない世界が広がっていた。

空は群青。
まだ夜の深さを残しながらも、
どこか朝へ向かおうとしている色。

その群青の中を、
太く長い白い雲が、
山の稜線の少し上を、
南から北へと大きく駆け抜けていた。

私はその雲を魅た瞬間、
龍だと思った。
ただの雲ではなかった。

横浜の中華街で逢った、
四神の門。
その記憶がふっとよみがえった。

青龍。

そうだ。この群青の空を駆けているのは、
青龍なのだ。

そう思った途端、
空はただの夜空ではなくなった。

青龍のまわりには、
ひときわ輝く星。
さらに南の空へ目を向けると、
三角形を描くように輝く星たち。

そのまわりには、
魅れば魅るほど、
小さな星がいくつも現れてくる。

まるで、
青龍が夜空を駆けながら、
星をひとつずつ撒いているようだった。

さらに空を仰ぐと、
頭上近くに月が浮かんでいた。
満月を少し過ぎた、
まだふっくらと丸みを残した月。

昨日、月見団子を食べたせいなのだろうか。
その月のそばには、
私のかわいいうさぎまで、
ちょこんと寄り添っているように思えた。

青龍。
星。
月。
そして、うさぎ。

まるで夜空そのものが、
私のためにひとつの舞台を
開いてくれたようだった。

こんな空、
今まで魅たことがあっただろうか。

いや。

少なくとも、
私の心がこれほど震えた空は、
なかったように思う。

神々しい。

その言葉が、
いちばん近かった。

胸の奥が、
静かに震えていた。

でも、
静かなだけではなかった。

心が震えると、
身体までじっとしていられなくなる。

この空を、
もっと魅たい。
もっと広い場所で魅たい。
ベランダ越しではなく、
空の下へ出て、
そのすべてを身体で受け取りたい。
そう思った。

昨日までの私なら、
もう少しここにいよう、
もう少し眺めていよう、
そう思っていたかもしれない。

でも今朝は違った。

空の方から、
呼ばれている気がした。

早くおいで。
もっと広いところへ。
もっと空が魅える場所へ。

そんな声が、
群青の向こうから届いているようだった。

そして私は思った。

歩こう。
今から歩こう。
朝が完全に始まる前に。
まだ夜の名残が残っているうちに。

この群青と、
青龍と、
星の光を、
胸いっぱいに抱えたまま、
外へ出よう。

日記を忘れていなければ、
この空には逢えなかった。

ベランダに出なければ、
この青龍にも、
この星たちにも逢えなかった。

そう思うと、
偶然というものは、
ときどき、
とても静かに、
心の扉を開くものなのだと思う。

今朝、
私の心は、
空に動かされた。

そして、
身体まで動かされた。

だから今から、
歩きに行こう。

朝の光が来る前に。

群青の世界の続きを、
自分の足で迎えに行こう。

群青を
駆ける青龍
星を撒き
心震わせ
朝へ我ゆく

— Morimura