「森村さん、
今日はどこへ向かっているのでしょう!」
ナビゲーター、モリリン。
「なんだか身体が前のめりだよ!」
アシスタント、ヒカリン。
そして少し後ろから、風さん。
三人そろって、
森村さんの後を必死で追いかけている。
キュッ、キュッ、キュッ、キュッ。
「ほら、HOKAまで調子に乗ってるよ」
「ほんとだ。今日はいつもより弾んでる」
「昨日、
物語の主役にしてもらったからじゃない?」
「日の光も浴びたし、注目も集めたし……
もしかして浮かれてる?」
「靴まで?」
「森村さんと一緒なら、あり得る」
そんなことを言っているあいだにも、
森村さんはずんずん進む。
今日は急ぐ朝。
そのはずなのに。
まず目に入ったのは、パン屋さん。
「あ、止まった」
「止まったね」
森村さん、店先を覗き込む。
残念ながら、
まだ閉まっていて中はよく見えない。
けれど看板には、
どうやら「緑の道」とパンを思わせる文字。
「なんて読むんだろうね」
「森村さん、絶対あとで調べるよ」
「うん。そしてまた“パンの旅”とか
始めるんじゃない?」
「ありそう」
森村さんの暮らす街には、
パン屋さんがたくさんある。
そして、たぶんパンにまつわる思い出も、
たくさんある。
しかも、少し笑ってしまうような思い出まで。
「ここから心の旅に入るかな?」
「……あ、行っちゃった」
今回はそこまで深くは入らなかったらしい。
森村さん、くるりと向きを変え、
またずんずん。
そして細い路地へ。
「今度は何?」三人が追いつくと、
森村さんは一枚の看板の前に立っていた。
黒い背景。
そこに浮かぶ、細い三日月。
スナック まゆ月。
「これ、森村さん好きそう」
「絶対好き」
「今、何考えてると思う?」
三人、同時に顔を見合わせる。
「ここに、うさぎ一匹いたらいいのに」
……たぶん、そう。
「私なら月の横に、ちょこんとうさぎ描くな」
ほらね。
三人で笑った。
けれど今日は、そこで終わらない。
「ねえ、また方向変わったよ」
「……丸和だ」そう。
森村さん、とうとう丸和の前へ。
以前から気になっていたお店。
扉の前には「準備中」の札。
そして貼り紙。
「何て書いてあるんだろう」
ヒカリンが背伸びする。
モリリンも横からちらり。
お支払いは現金のみ。
そして、お連れ様がお揃いになってから
お並びください。
「へえ」
「こんな案内があるってことは……」
「やっぱり並ぶお店なんだね」
三人、妙に納得。
そして森村さんは、
丸和の位置を確認して、
十番館を確認して、
道の位置関係も確認。
「なんだ」
「一本でつながってるじゃない」
「森村さん、
今まで頭の中で別々に置いてたんだね」
そして――また何かを見つけた。
「あれ何?」十番館の前。
淡い青灰色の、小さな建物。
上には英語で、
PUBLIC TELEPHONEその下には大きく、
公衆電話。
「えっ、これ電話ボックスなの?」
「かわいい!」
森村さん、近づく。
ちょっと覗く。
中には、ちゃんと緑色の公衆電話。
しかも、ご利用できます。
「使えるんだ!」森村さん、
急にポケットをごそごそ。
「まさか……」
「電話する気?」
「たぶん」
ごそごそ。ごそごそ。……ない。
「小銭、持ってないね」
「ないね」
「交通系ICじゃ、さすがに無理だよね」
森村さん、ちょっと残念そう。
でも次の瞬間、顔が変わった。
「明日の朝、
ここから家族に電話してみよう」
森村探検隊|急ぐ朝ほど、寄り道したくなる
「出た」
「もう明日の企画になってる」
「森村さん、明日は小銭忘れちゃダメだよ」
「ほんとにね」
でも不思議。
この道は何度も歩いている。
十番館だって何度も見ている。
なのに、
こんな公衆電話ボックスがあることには、
今日まで気づかなかった。
発見って、そんなものなのかもしれない。
いつも同じ道を歩いていても、
心が向く方向が少し違うだけで、
突然そこに現れるものがある。
「だから森村さんって、
いつもキョロキョロしてるんだよね」
「そうそう」
「あっち見て、こっち見て、時々空見て」
「でも……」二人、急に黙る。
そして森村さんの足元を見る。
「足元、ほとんど見てない」
「うん」
二人は知っている。
そんなふうに歩いていて、
歩道の段差につまずき、
ダイナミックに転んだことを。
そして、見事にスマホを壊したことを。
「森村さん」
「お願いだから」
「たまには足元も見て歩いてね」
モリリンとヒカリン、心から祈る。
風さんも横で、
「そこは私にも止めきれないからね」と、
ひと言。
そしてようやく。
森村さん、ゴールへ到着。
……したはず。
ところが三人には、まだ何か匂っている。
「ねえ、モリリン」
「うん」
「今日、まだ何か企んでない?」
「私もそう思う」
「なんとなく……丸和の匂いがする」
「丸和へ行ったら?」
「十番館にも寄る」
「だよね」
三人、顔を見合わせる。
急ぐ朝なのに、
頭の中にはすでに次の寄り道。
森村探検隊としては、
ぜひその頭の中を覗いてみたい。
たぶんそこには、面白いこと。
突拍子もないこと。
そして、また新しい小さな物語の種が、
もりもり、もりもり。
生えているに違いない。
「ね、ヒカリン」
「うん。今日も油断できないね」
「風さん、引き続きよろしく」
「はいはい。ちゃんと見張っておきます」
それでは――森村探検隊、朝の実況中継。
これにて終了!
ジャン、ジャン。
ナビゲーターはモリリン。
アシスタントはヒカリン。
そして、
森村さんの暴走防止係・風さんでした。
— Morimura
森村探検隊|急ぐ朝ほど、寄り道したくなる
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