大地には、水鏡。

天空には、群青鏡。

水鏡は、
流れゆく時を抱き、

群青鏡は、
果てしない空を抱く。

そして、
そのふたつの鏡のあわいに、
小さな私が佇んでいる。

私はずっと、
空に心を描いていると思っていた。

けれど、
空が私の心を映していたのかもしれない。

遠い日の光も、
懐かしい風の温もりも、

忘れてしまったのではなく、
心の奥で静かに息づいていた。

ひとつの風景が、
もうひとつの風景を呼び覚ます。

過ぎ去った時が、
今という時に触れる。

すると、
あの頃には見えなかった優しさが、
新しい光をまとってよみがえる。

過去は変わらない。

けれど、
過去を映す私の心は、
今日も少しずつ変わっていく。

そして、
心の真ん中には白い余白。

それは、
何も知らなかった頃の白ではない。

喜びを知り、
悲しみを知り、
幾重もの季節を歩いてきた心が、
もう一度、新しい色を迎えるための白。

だから私は、
白に返ることを恐れない。

昨日の私を消さなくてもいい。

明日の私を急がなくてもいい。

転んだ日も、
立ち止まった日も、
道草を楽しんだ日も、

みんな私の歩いてきた道。

そして、これから歩く道。

夜の群青に、
星たちの白い光が溶けてゆく。

その先に、
ほのかなピンクゴールドが生まれる。

夜が朝を追いかけるのではない。

朝が夜を追い払うのでもない。

ただ、
ふたつの時が静かに重なり、

新しい空の色を生み出していく。

私も、
そんなふうに生きていきたい。

何かを追いかけるためではなく、
何かから逃れるためでもなく、

ただ、
私の心が感じるままに。

大地の鏡に、
今日の私を映し、

天空の鏡に、
まだ知らない私を映す。

ふたつの鏡のあわいには、
どこまでも広がる白い余白。

そこには、
まだ描かれていない
無数の風景が眠っている。

そして、
その余白の向こうに、
小さな扉が見える。

いつか、いつかと、
心に温めてきた未来の扉。

その扉へ続く道は、
もう私の足元から始まっている。

急がなくてもいい。

遠回りしてもいい。

今日という一日が、
また新しい私を育ててくれる。

心は深く、足取りは軽く。

私は今日も、
ふたつの鏡のあわいを歩く。

いつかちゃんへ続く道を。

— Morimura