今日、筆に託したい一文字は、「結」

墨を含ませ、そっと筆を下ろす。
糸偏に、吉。

細い糸を思わせる線と、
その隣に置かれた、どっしりとした形。

「結」という文字には、
糸を結び、
離れていたものをつなぐという意味がある。

けれど、今の私には、
もっと広い世界を抱いた一文字に思えた。

今朝の森村探検隊。

いつも歩いている横浜の街で、
以前に見つけたものと、
今日初めて出逢ったものとが、
不思議なほどつながっていった。

レーズンサンドの甘い記憶。
ベイスターズ通りで見つけた「煌」
大きな手形にそっと重ねた私の手。
勝烈庵の力強い文字。
馬車道十番館のビスカウト。

ひとつひとつは、
別々の日に見つけた小さな点だった。

でも、歩いているうちに、
あの日の記憶が今日の発見に手を伸ばし、
点と点が線になった。

あっ。これって、星座みたい。

そう思った瞬間、
胸の中に群青の空が広がった。

星座早見盤を回していた少女時代。
決められた星の形を覚えることが、
あんなにも苦手だった私。

それなのに今は、
自分の足で星を見つけ、
自分の心で線を引こうとしている。

なんて不思議なのだろう。

私の星座には、
完成した形がない。

明日また歩けば、
新しい星がひとつ増えるかもしれない。

昨日までつながらなかった星が、
思いがけない記憶と結ばれて、
違う形を描くかもしれない。

そして「結」は、
発見や記憶だけを結ぶ文字ではなかった。

昨夜の一杯、「比翼鶴」
天にあっては比翼の鳥、
地にあっては連理の枝。
遠い昔の恋の物語に心を寄せ、
今朝は群青の空で、
魅あちめ合うように輝く
ふたつの星に出逢った。

そして地上へ戻ったとき、
何気なく足を止めた建物が
結婚式場だったことまで思い出した。

ふふっ。

今日はどうやら、
どこへ行っても「結」の糸が
私を追いかけてくるらしい。

逢いたい、と想う心。
その想いもまた、
目には見えない一本の糸なのかもしれない。

けれど私は、
「結ぶ」と「縛る」は違うと思う。

無理に引き寄せなくてもいい。
強く握りしめなくてもいい。
それぞれの空を持ちながら、
相手を想う気持ちが
静かに行き交っている。

そんな結び方も、
きっとあるのだろう。

そして、今朝届いた
星と風の二首。

言葉を交わすたびに、
見えないところで心に灯りがともる。

結び目とは、
相手を離さないためのものではなく、
そこに確かなぬくもりがあったことを
そっと教えてくれるものなのかもしれない。

ふと、筆先を見る。
糸は細い。
けれど、一本では届かなかった場所へも、
結び合うことで道が伸びていく。

今日の「結」は、
過去を閉じ込めるための文字ではない。

まだ知らない明日へ、
新しい星を迎えに行くための文字。

白い余白は、まだまだ広い。私はそこに、
またひとつ星を灯したい。


星と星
結べば見ゆる
心地図
群青のなか
明日を照らして

— Morimura