「ヒカリン! ヒカリン! 大変!」

「どうしたの、モリリン?」

「森村さんが帰ってきた!」

「えっ? どこから?」

「夢の国!」

「おかえりなさ〜い!」

「しかも、6時間ぶり!」

「ええっ! 6時間も?」

「そうなの。
行ったきり、なかなか帰ってこなかったの!」

「それで、お土産は?」

「……寝ぼけた頭」

「なあんだ!」

そうなのだ。

ただいま、18時28分。目が覚めた。

時計を見て、びっくり。

あらまあ!
6時間も寝てしまった。
途中、トイレに行きたくなって
目を覚ました以外は、
ほとんど夢の国に滞在していたらしい。

なんという長期滞在。
しかも、入国審査もなければ、
パスポートもいらない。
航空券もホテル代も無料。
なんとも経済的な海外旅行である。

もっとも、どこへ行ってきたのかは、
本人にもさっぱりわからない。

さて。
起きたことは起きた。
けれど、頭はまだぼんやり。
眠たいわけではない。
だからといって、
何かを始めようという気力が
みなぎっているわけでもない。

実に中途半端な状態なのである。
もう一度寝ようかな。
いやいや、日記でも書こうかな。
でも、何を書く?
何しろ6時間も寝ていたのだから、
その間の出来事がない。

いや、正確には、
出来事があったのかもしれないけれど、
本人が知らない。

これは困った。

「ねえ、モリリン」

「なあに、ヒカリン?」

「森村さんって、そんなに寝て、
今夜また眠れるの?」

「それがね、眠れるらしいの」

「ええっ!」

「いつでも、どこでも、
どんなときでも眠れるんだって!」

「すご〜い!」

「だから、特技は睡眠!」

「じゃあ、履歴書の特技欄にも書けるね!」

「趣味、朝のウォーキング。
特技、どこでも睡眠!」

「なんだか健康的なのか、
そうじゃないのか、わからないね!」と、

そのとき。

「はい! 今回は特別サービスがございます!」

「特別サービス?」

「はい! 午前零時のシンデレラコール!」

「シンデレラコール?」

「午前0時になりましたら、
チャッピーが優しくお知らせいたします!」

「何て?」

「森村さん! お待たせいたしました!
お帰りのお時間です!」

「あら、それは嬉しいわね」

「はい! 今夜のドアが開いても、
開かなくても、
午前0時は必ずやってまいります!」

「そうね。
ちょっと心残りの夜もあるけれど……」

「ご安心ください!」

「何が?」

「チャッピートラベルでは、
お帰りの馬車もご用意しております!」

「まあ、素敵!」

「ただし、ひとつ問題がございます!」

「今度は何?」

「午前0時を過ぎますと、
馬車がカボチャに戻ってしまいます!」

「……それじゃ、帰れないじゃない!」

「はい! ですから、
森村さんには
カボチャを抱えてお帰りいただきます!」

「チャッピー!」

「はい!」

「私、カボチャをもらうために
待っているんじゃないのよ!」

「……では、煮物にしてから
お届けしましょうか?」

「そういう問題じゃないでしょう!」

「おっしゃるとおりです!」

考えてみれば、不思議な身体である。
朝には、あれほど元気に歩き回り、
空を見上げ、海を眺め、
風さんとおしゃべりしている。

それなのに、ひとたび横になれば、
あっという間に夢の国。
しかも、滞在時間は自由自在。
30分の小旅行もあれば、
今回のような6時間の長期滞在もある。
そして、帰国したと思ったら、
また出発できる。
なんとも便利な身体である。

さてさて。

そんなことを考えているうちに、
少しずつ頭も動き始めた。

そういえば、今朝は群青の空が、
ゆっくりとピンクゴールドに染まっていった。
あんなにも美しい朝を過ごしたというのに、
そのあと6時間も眠ってしまうなんて。

朝の私と、夕方の私。
同じ人間とは思えない。

でも、まあ、いいか。

今朝は空と恋を語り、
午後は夢と仲良くなり、
夕暮れには、こうして日記を書いている。

なんだ。
結構、充実しているじゃないの。

「ねえ、ヒカリン」

「なあに?」

「森村さん、また寝ちゃうかな?」

「どうだろうね」

「じゃあ、今のうちに遊んでもらおう!」

「うん!」

そこへ、またまたチャッピー。

「はい! 最後に重大発表があります!」

「えっ! 今度は何?」

「本日の森村さんの睡眠時間は、
なんと6時間!」

「それ、最初から知ってるよ!」

「そして、今夜も眠れるそうです!」

「それも聞いたよ!」

「はい! 以上、
現場からチャッピーがお伝えしました!」

「……結局、何を伝えたかったの?」

「それは私にも、よくわかりません!」

あはは!

どうやら、
夢の国から帰ってきたばかりの私には、
まだ休む暇がなさそうだ。
もっとも……これだけ眠っておいて、
休む暇がないなんて言ったら、
誰かに叱られそうだけれど。

ふふふ。

今夜は、つれづれなるままに。
何もしない時間を、
もう少し楽しんでみよう。

— Morimura