心の星図|物語を越えて、世界を紡ぐ〜つれづれなるままに、心の宇宙を旅する〜
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朝のアラームが鳴ったような気がした。
あっ、もう4時?
早く起きなくっちゃ。
星を見に行かなくっちゃ。
そう思って、
慌てて起き上がったつもりだった。
ところが、目の前は真っ暗。
自然とアイマスクを外す。
白い天井。
左右から迫ってくる壁。
高々と照る蛍光灯の明かり。
あれれ?
あっ、そうだった!
ここは待機所だったんだ。
そういえば、
『あわい草子』をアップしたあと、
急に眠たくなって、
アイマスクをつけて眠ってしまったんだった。
なあんだ。
てっきり朝になったと思っていた。
しかも、目覚めた途端に考えたことが、
星を見に行かなくっちゃ、だなんて。
そんな自分に、思わず笑ってしまった。
どうやら最近の私は、
夜空の星々に
すっかり心を奪われているらしい。
こうなったら、天体望遠鏡が欲しいくらい。
持ち歩けるような、
小さな天体望遠鏡はないのかしら。
それがあれば、
ほんの少しだけ開きかけた星の世界の扉を、
もっと大きく
開けることができるかもしれない。
星々の本当の姿に触れたとき、
私は何を感じるのだろう。
そこからまた、
どんな物語が生まれるのだろう。
そんなことを、
まだ眠りから覚めきらない頭で考えていた。
ふと、夜風に当たりたくなった。
外へ出てみようか。
けれど、今日はやめることにした。
冷たい夜風を感じたからかもしれない。
それとも、今夜は外の世界を眺めるより、
自分自身の心と
向き合っていたかったからなのだろうか。
私は再び待機スペースに戻った。
壁に背中をもたれ、ちょこんと座る。
そして、静かに目を閉じた。
瞑想でもしてみようか。
もっとも、座禅を組んで、
両手のひらを上に向けるような
立派な姿勢ではない。
膝を立てて、両腕で抱え込む。
まるで体育座り。
なんとも格好のつかない
瞑想スタイルである。
けれど、不思議なことに、
目を閉じると、
心の中にはあの朝の星空が広がってきた。
冬の大三角形。
そして、平行四辺形のように並ぶ星々。
その中に、
三点リーダーを縦にしたような、
3つの小さな光。
あれは、オリオン座の「小三つ星」だった。
オリオンが腰から下げている
剣にあたる星々。
しかも、その中央付近には、
星が生まれる場所、
オリオン大星雲があるという。
そして、剣の少し上には、
横一列に並ぶ、もうひとつの三つ星。
こちらは、オリオンのベルト。
けれど、私の目に留まったのは、
縦に並ぶ剣の星々だった。
ああ、やっぱり天体望遠鏡が欲しいな。
あの小さな光の向こうに広がる宇宙を、
もう少し覗いてみたい。
そんな想いが、また膨らんでいった。
時計を見ると、19時38分。
どうやら1時間20分ほど眠っていたらしい。
本当に熟睡していたようだ。
ただ、少々腰が痛い。
夕食のおにぎりを食べて、
すぐに眠ってしまったからだろうか。
胃もなんだか重たい。
しばらくこの体育座りの瞑想スタイルで、
日記でも書いていようか。
そんなことを考えていた。
そして、ふと思い出した。
そうだ。久しぶりに「一筆入魂」を
やってみよう。
今日も候補の文字はいくつか浮かんでいる。
面白いもので、書かない日でも、
候補の文字だけは日替わりで変わっていく。
今日は3つ。
けれど、今の私の心に一番しっくりくるのは、
この一文字だった。
「紡」、物語を紡ぐ。
私は、この言葉が好きだ。
けれど、私の紡ぐ物語は、
決して壮大な長編でもなければ、
涙を誘うような感動の物語でもない。
ただ、日々の暮らしの中で、
ふと目に留まったもの。
そのとき感じたこと。
何気なく心に浮かんだ言葉。
そんな小さなものを拾い集め、
さらさらと言葉に乗せていく。
風の吹くまま。
木々の揺れるまま。
そして、心の向くままに。
まさに、つれづれなるままに。
私は、そんな営みを
「物語を紡ぐ」と呼びたいのだと思う。
そして、もうひとつ不思議なことがある。
こうして思いつくままに語っていると、
自分が発した言葉に呼応するように、
遠い記憶が次々と蘇ってくるのだ。
ひとつの言葉が、別の記憶を呼び覚ます。
その記憶が、また新しい言葉と結びつく。
すると、思いがけない風景が心の中に現れる。
それは、まるで言葉の魔法。
気がつけば、
私はその世界へと旅立っている。
あるときは、遠い土地へ。
あるときは、はるかな昔へ。
そして、ときには、
すっかり忘れていた自分自身の記憶の中へ。
そうして心の旅を続け、
また今という時間に戻ってくる。
戻ってきた私の心には、
旅立つ前にはなかった、
新しい何かが残っている。
過去の記憶に、
今の感性という光が差し込んでいる。
ああ、これもまた『あわい草子』の世界
なのかもしれない。
5〜6年前の私が書いた言葉。
今の私が感じていること。
そのふたつが時を越えて出逢い、
また新しい物語を生み出していく。
そして、ふと思い出した。
点を結べば線になる。
線を結べば面になる。
そして、その道を自分の足で歩けば、
物語になる!
以前、森村探検隊で生まれた言葉。
けれど今夜は、一歩も歩いていない。
狭い待機スペースで、
膝を抱えて座っているだけ。
それなのに、
私の心は果てしなく遠くまで旅をしていた。
夜空の星を結べば、星座になる。
心に浮かぶ記憶を結べば、物語になる。
そして、いくつもの物語を
つないでいくうちに、
点は線となり、線は面となって、
やがてひとつの世界を形づくっていく。
最初は、ぼんやりとした
輪郭しかなかったもの。
それが、言葉を重ねるたびに
少しずつ姿を現し、
やがて私だけの風景になっていく。
そうか。
私は、ただ物語を
書いているのではないのかもしれない。
日々の小さな気づき。
そこから生まれる感動。
遠い記憶との出逢い。
そして、心の中を旅する言葉たち。
それらをひとつひとつ結び合わせながら、
私は何かを形づくっている。
それは、ほかの誰のものでもない。
私だけの心の世界。
そう、私は物語を紡ぐのではなく、
世界を紡いでいるのだ。
今夜、星を見に行こうとして目覚めた私は、
結局、夜空を見上げることはなかった。
けれど、目を閉じた心の中には、
あの朝の星々が確かに輝いていた。
そして、その星々を結ぶように、
いくつもの記憶と言葉がつながっていった。
小さな待機スペース。
壁にもたれ、膝を抱えて座る私。
その姿からは想像もつかないほど、
心の中には広い世界が広がっていた。
私の心には、私だけの星図がある。
そして、その星図には、
まだ結ばれていない星々が、
きっと無数に輝いているのだろう。
さあ、次は筆を執ろう。
今夜の一文字は、「紡」
この文字に、今の私の心を込めてみたい。
— Morimura