群青の夜が
静かに衣をほどいていく。

まだ夜でありながら
もう朝へと向かっている。

そのあわいに佇み
私はひとつの星を見つめていた。

シリウス。

遥かな天空に輝く星。

その光は
幾千もの時を越え
今、私の瞳に届いている。

けれど
水鏡を見つめているうちに
ふと思った。

星は、天空だけに
輝いているのではないのかもしれない。

名も知らぬ誰かの胸にも
小さな光は宿っている。

人知れず流した涙。

誰にも語らなかった願い。

幾度倒れても
再び立ち上がろうとする心。

そんなひとつひとつの営みが
地上に輝く星なのだろう。

時代を見つめてきた玉楠も
その光を知っているのかもしれない。

風に枝葉を揺らし
大地に深く根を張りながら

幾世代もの人々の
喜びも悲しみも
静かに見守ってきた。

人の一生など
木の年輪に刻まれる
ほんのわずかな時なのかもしれない。

けれど、その短い歳月にも
尽きることのない物語がある。

やがて
群青は白へと還り
白の向こうに薄紅が生まれた。

それは
心の奥にそっと灯る
小さな恋灯り。

燃え盛る炎ではなく
消えゆく残り火でもなく今、

この瞬間も
静かに温もりを育んでいる光。

昨日のときめきが
今日の優しさとなり今日の優しさが
明日への希望となる。

想いは積もるのではない。

澄み重なる。

清らかな水が
幾重にも透き通るように心の深いところで


静かに、豊かに
澄み重なっていく。

そして
朝の空は突然
鮮やかなピンクゴールドに染まった。

雲のあわいから
幾筋もの光が溢れ出す。

その光の中に浮かぶ
不思議な文字たち。

古い時代の象形文字か
遥かな祈りを刻んだ梵字か。

誰が綴ったのでもない
天空からの一篇の手紙。

そこには
こんな言葉が
記されているように思えた。

あなたの今日が
誰かの心を照らす光になりますように。

ああ。

そうなのね。

誰かを想う温もりも
誰かからいただいた優しさも

自分の心に
しまっておくだけではなく

いつか、また
別の誰かへと届けられる。

恋灯りは
ひとりの胸に宿りながら
やがて人々の心を照らす
小さな星になっていく。

海が揺れている。チャプチャプと
水面が優しい音を奏でている。

その水鏡には
もう天空の星は見えない。

けれど
星の輝きが消えたわけではない。

夜が朝に姿を変えただけ。

見えなくなっても
そこに在り続ける光がある。

私の心にも
そんな灯りを
ひとつ持っていたい。

眩しくなくてもいい。

大きくなくてもいい。

ただ、誰かが
少しだけ俯いたとき

その足元を
そっと照らせるような
小さな光でありたい。

そして今日も
新しい一日へ歩き出す。

風の向くまま
気の向くまま
心のまま
ひらめくままに。

天空の星を見上げながら
地上の星として生きていく。

心の奥に
恋灯りを澄み重ねながら。


恋灯り
水鏡にも
映りゆき
地上の星へ
光を渡す

ー Morimura