私は、わずか二時間の眠りと引き換えに、
それでも朝を選んだ。

昨日は最後に、もう一つの
ご褒美のような出逢いあり、
お部屋へ戻ったのは0時50分ごろだった。

おしゃれ着洗いは朝に回し、
メイクを落としてベッドに入ったのは1時半。
けれど、一日の最後のご褒美である
ショートドラマを、
どうしても観ずにはいられなかった。

「15分だけ」のつもりが、気づけば30分。
眠りについたのは午前2時だった。

それでも4時には起きたかった。
朝のウォーキングへ行きたかった。
そして何より、朝そばを食べに行きたかった。

残り三種類の冷たいメニューを
三日間で食べ比べ、
その中から、
これからの私の定番を見つけたい。
そんな小さな楽しみが、
眠気の残る私を
朝の街へ連れ出したのかもしれない。

外は、生ぬるいという言葉では
足りないほど暑かった。
まるで自分がお鍋の中で、
ゆで卵にされているようだ。
半袖でも、ウェアの中はすぐに
汗でびっしょりになった。

ところが、馬車道を進み、
道幅が大きく広がる場所まで来ると、
港からの風が一気に吹き抜けてきた。
汗ばんだ体を、さらさらと洗うような風。
さっきまでの暑さが嘘のようにほどけ、
まるで別世界へ足を踏み入れたようだった。

新港中央広場の入口では、
鮮やかな黄色のひまわりたちが迎えてくれた。

「おはよう。今日も来たね」
そんな声が聞こえてくるようで、
眠っていた頭の中が、
ゆっくりと目を覚まし始める。

赤レンガ倉庫の向こうには、
観覧車とインターコンチネンタルホテルの
美しいシルエット。
かつてテレビの向こう側にあった景色を、
今では毎朝、自分の目で眺めている。

その不思議さを感じながら、
私は大さん橋へと向かった。

水上タクシー乗り場のあたりまで来たとき、
左前方に、
半分だけ顔をのぞかせた太陽が魅えた。

ピンクゴールドに輝く、半円の光。
「出た!」思わず心の中で叫び、
足取りが速くなる。
歩くほどに太陽は少しずつ姿を現し、
大さん橋の入口へ着くころには、
ほとんどすべての姿を魅せていた。

私は、天空高く昇った昼間の太陽よりも、
生まれたばかりの朝の太陽が好きだ。
その色には、静かな神々しさと、
言葉では言い表せない神秘がある。

大さん橋の先へと続く
長い一本道を歩きながら、
頭の中では、
昨日までの思いや残像が、
最後の仕分けを始めていた。

心が軽くなる。
頭が軽くなる。
体まで軽くなる。 
そして、少しずつ空っぽになっていく。

太陽が迎えてくれる。
海が迎えてくれる。
風が包んでくれる。

大さん橋の先端へたどり着くと、
水面には、太陽から私の足元へと続く
一本の光の道ができていた。
その揺らめきは、
今日の私が進むべき道を
示してくれているようだった。

私は大きく深呼吸し、
ピンクゴールドの太陽をまっすぐに魅つめた。

昨日までの私を静かに脱ぎ捨て、
朝の光を全身に浴びながら――
私はまた、今日という一日を生きるために、
生まれ変わった。