駅へ向かうため、
少し早めに家を出ることにした。

家族に、「行ってくるね」と声をかけると、
いつものように玄関先まで見送ってくれた。
「気をつけてね。
別に慌てる必要はないんだから、
ゆっくり、落ち着いて行ってね」
その言葉が嬉しかった。
「そうするわ」
私は素直に答え、
玄関の扉を開けて、
一歩、外へ足を踏み出した。

そして振り返り、家族に手を振った。
家族の姿が見えなくなった瞬間、
私の頭の中は、完全に横浜へと切り替わった。

昔から、
切り替えが早いとはよく言われてきた。
ただ、ぱっと切り替わるその瞬間までは、
いつまでもぐずぐずと迷っている。
それもまた、
昔から変わらない私の癖なのだ。

外の暑さは、
昨日までに比べれば、
ずいぶんましだった。
気温も3、4度ほど低いように感じる。
太陽が顔を出しているため、やはり暑い。
けれど、吹いてくる風は、
穏やかな波のように心地よかった。
その風に乗りながら、
私は軽やかなリズムで、駅へと足を進めた。

駅に着くと、やっぱり暑い。
「暑い、暑い、暑い」
一人で、思わず口にしてしまった。
改札内のお土産物屋さんは、
とても涼しくて快適だけれど、
いつもお土産を買う人で混み合っている。
だから今日は、
改札へ入る前のコンビニで、
コーヒーと、少し小腹が空いたときの
お菓子を買ってから、電車に乗ることにした。

平日のこの時間なら、
休日よりは少し空いていると思っていたが、
意外にも人が多い。
そうだった。今は、夏休みなのだ。
あちらこちらで、
元気に動き回る子どもたちの姿が見える。
ちょこまかと歩き回る子どもを
見失わないように、
懸命に追いかける親御さんたちは、
なかなか大変そうだった。

改札に入っても、電車の発車時刻までは、
まだ少し時間がある。
早くホームへ上がると暑いので、
もう少し下で涼みながら準備をしてから、
上がることにしよう。
とはいえ、あまりぎりぎりまで待っていると、
エスカレーターが混み合い、
電車に乗り遅れてしまうかもしれない。
だから、発車の5分前には
ホームへ向かうことにした。

頭はすでに横浜モードへと切り替わっている。
けれど、朝起きてからの
自分の行動を振り返ってみると、
ゆっくり座っていた時間など、
ほとんどなかった。
久しぶりに、少し疲れた。

早く電車に乗り、
自分の座席に腰を下ろして、
背もたれを倒したい。
そこから始まる1時間54分は、
きっと誰にも邪魔されない、
私だけのオアシス時間になる。

ホームへ上がると、
やはり、むっとするような暑さが待っていた。
けれど、自宅からここまで
私と一緒にやってきた風が、
今もすぐそばにいてくれるような気がした。
そして私は、またその風に乗り、
遠く離れた横浜へと旅立つ。

ホームに掲げられた
駅名の看板を魅つめながら、
「また5日後の朝に、帰ってくるからね」
心の中でそう語りかけ、
私は列車へと乗り込んだ。