今日の私の物語は、
そっと幕を閉じたはずだった。
けれど、その余韻が静かに漂う中で、
もう一つ、小さな物語が始まった。

今日は、もう最後のドアは開かないだろう。
そんな気持ちでいたけれど、
その最後のドアは、
静かに私を待っていてくれた。

少し離れたホテルだったので、
ちょうど信号待ちをしていた
タクシーを呼び止め、
そのまま向かった。
おかげで慌てることもなく、
予定通りの時刻に到着することができた。

最後ののドアを開くと、
愛嬌のある笑顔と、
どこか男らしい落ち着きをあわせ持った
あなたが迎えてくださった。

少し言葉を交わしただけで、
「もしかして西の方からのご出張ですか」
と尋ねてみた。
すると、都道府県名まで
ぴたりと当たってしまい、
お互い思わず笑顔になる。

食べ物の話でもすぐに意気投合し、
会話は自然と弾んでいった。
「これから始まる時間は、
きっと心地よいものになる」
そんな予感が、
ゆっくりと胸の中に広がっていた。

私はそっとあなたに触れた。
ゆっくり、ゆっくりと、やさしく、やわらかく。あなたは静かに
身を委ねてくださっていたけれど、
あまり言葉がなかったので、
「気持ちいい?」と尋ねてみた。
すると、小さく微笑みながら、
「気持ちいいよ」
その一言だけを返してくださった。
その短い言葉が、
なぜだろう、とても嬉しかった。

そして今度は、あなたが私へ返してくださる。
とてもやさしく、とても丁寧に。
一つひとつが真っすぐで、一生懸命で、
私の顔までそっと触れてくださる
そのぬくもりに、思わず微笑んでしまう。
その素直な優しさが、
とても愛らしく感じられた。

最初は口数が少なく、一言、二言と
静かに言葉を交わすだけだったから、
「どうされたのかな」と少し気になっていた。
でも後になって、
「もしかして、照れてる?」と聴いてみると、
恥ずかしそうに顔を隠しながら、
その理由を知った瞬間、
不思議なくらい距離が縮まった。

それからは、お仕事のこと、日々のこと、
いろいろなお話を聞かせていただき、
気づけば笑顔の絶えない時間になっていた。

今日という一日は、
もう終わったと思っていた。
けれど、そのあとに訪れた小さな物語が、
この一日を最もあたたかく、
美しく締めくくってくれたような気がする。

長い一日の最後に、
風はもう一度だけ、私のもとへ戻ってきた。
そして静かに囁く。
「今日もよく歩いたね。また明日、
新しい物語を一緒に紡ごう」と。

そのやさしい風に包まれながら、
私は今日という一日に、
そっと感謝を伝える。
明日もまた、どこかで新しい風と、
新しい出逢いが待っていますように。