朝の光を浴びながら、
私は再び前へと進み始めた。
今日は、不思議なほど風がない。
それでも、すっかり気に入ってしまった曲を、
もう一度聴きながら歩いた。
風が私を呼んでいる。
鳥が私を呼んでいる。
晴れが私を呼んでいる。
雲が私を呼んでいる。
木々が私を呼んでいる。
音楽に合わせて心の中で歌っていると、
実際には風など
ほとんど吹いていないはずなのに、
なぜか私の内側で、
風が生まれているように感じられた。
誰かが運んできてくれる風ではない。
私自身の力で、
心の中に風を起こし、
その風を外の世界へ吹かせているような、
不思議な感覚だった。
どうやら、この歌には、
そんな力もあるらしい。
自分の中に生まれた風に誘われ、
その風に呼ばれるようにして、
私は中華街へと入った。
今日を最後に、
しばらく見納めとなる中華街。
そう思うと、
なぜか無性に、
中国らしいものに触れたくなった。
風に心を動かされていると、
私は戦国時代の戦いを思い出す。
勝敗の分かれ目に風が吹いた。
歴史の物語では、
そんな言葉をよく耳にする。
けれど、戦国時代というよりも、
やはり私の心に浮かぶのは『三国志』だった。
三国志の中で繰り広げられたいくつもの戦い。
その一つひとつに、
運命を動かす風が吹いていたように思う。
その風に思いを馳せながら
歩いていたせいだろうか。
いつもお参りする媽祖様の前を、
そのまま通り過ぎてしまった。
さらに、ジグザグに巡るつもりだった
中華街の路を一本曲がり忘れ、
気がつけば、
いきなり関帝廟の前へたどり着いていた。
三国志のことばかり考えていたから、
関羽様のもとへ導かれてしまったのだろうか。
そう思うと、なんだか可笑しくなった。
さまざまな思惑や策略が交差する中に、
人間の喜びや悲しみ、
信頼や裏切りがあり、
そこに、それぞれの運命を動かす風が吹く。
中国の歴史には、
いつも広大で、壮大で、
どこかダイナミックな人間ドラマが
流れているように思う。
そんな中国の世界には、
やはり金色と龍がよく似合う。
黄金に輝く装飾と、
空を駆けるような龍の姿を魅つめながら、
しばし壮大な歴史の風に心を遊ばせた。
そして、いよいよ、
しばらくお休みする前の朝そば時間である。
今日は、もう昨日から決めていた。
やはり、一番好きな冷やし長茄子そばに、
天ぷらの中で一番好きな
イカ天を添えてもらおう。
しばらく食べられないのだから、
急がず、よく噛み、
お蕎麦の香りと素朴な味わいを、
いつも以上に丁寧に味わいたい。
そう思っていた。
昨日は18:00頃に
晩ご飯を食べたのが最後だったため、
空腹のお腹に、
お蕎麦とイカ天は思った以上に
しっかりと響いた。
食べ終える頃には、
お腹がずしりと重たくなっていた。
それでも、心は満たされていた。
中国の広大で壮大な歴史ロマンの風を感じ、
お蕎麦の飾らない、
素朴な味わいに心を癒やされる。
まるで、全く異なる二つの世界を、
一度に旅したような朝だった。
私は少し重たくなったお腹を抱えながら、
いつもの私の専用ベンチが待つ
馬車道へと移動した。
龍の風に誘われて✨
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