私は歩く。
私という少し重たい荷物を
この身に抱えて。

風が頬を撫でる。
朝の光が眩しい。

小川はきらきらと光を運び、
そのせせらぎを私の心へ流し込む。

鳥が鳴く。
その声に合わせるように
足音が続く。

一歩。
また、一歩。

体は汗ばみ、
息は少しずつ弾んでいく。
それでも私は歩く。

前へ。
前へ。

ふと、空を見上げる。
限りなく透明に近い青。
何もない。
何もないほどに、美しい空。
私の心も
こんな色であればいい。

その果てしない青の中に、
雲が一つ。
ぽつりと、
置き忘れられたように
浮かんでいる。

どこへ行こうか。
どこにいようか。

迷いながら、
風に運ばれながら、
ようやく見つけた場所に
薄い影を落とし、
ひっそりと佇んでいた。

それでも雲は
消えようとはしない。
青に負けまいと、
光に溶けまいと、
空の中で
静かに息をしている。

私はその雲を連れて歩く。
小川のせせらぎを連れて。
鳥の声を連れて。
深い緑を連れて。

木々がつくる
緑のトンネル。
その隙間から
木漏れ日がこぼれ、
私の足元に
小さな光を置いていく。

一つ。
また一つ。

私は、その光を踏みながら歩く。
ひたすら、前へ。
前だけを魅つめて。

やがて
緑のトンネルを抜ける。
そこには、空があった。
海のように広がる
青い空。
光。
水。
緑。
大地。
風。
そして、雲。

すべてが
朝の旋律になる。
頭の中で
一つの音が生まれる。

その音は
五線を離れ、ひらり。
風に舞う。
また一つ、
音が生まれる。
ひらり。
また、ひらり。

音符は空へ昇り、
雲のまわりを舞い始める。

すると、私の中にも
風が生まれる。
一つ。
また一つ。

どこからともなく
新しい風が湧き起こり、
重たかった私を
少しずつほどいていく。

私は
その旋律に歩幅を合わせる。
前へ。
もっと、前へ。

気がつけば、
私という重たい荷物は
少しだけ軽くなっていた。

消えたのではない。
小川が流し、
光が照らし、
風が運んでくれたのだ。

空を見上げる。
あの雲は
まだ、そこにいる。
けれど、もう
迷っているようには魅えなかった。

青い空の中で、
光を受けながら、
静かに、
健やかに、
風と踊っていた。

私は雲を連れているのだと思っていた。

けれど本当は、
雲のほうが
私を連れてきてくれたのかもしれない。

この光の中へ。
この風の中へ。
そして、
まだ見ぬ新しい世界へ。
私は雲とともに、
今日も前へと歩いていく。