私はぎりぎりで会社に到着したけれど、
お客様の方は、
ずいぶん余裕をもって
来られていたようだった。
涼しい場所で本を読みながら、
私が来るのを待っておられた。

「わあ、お待たせして申し訳ありません」
そう言いながら、
スタッフにお願いして、
先に部屋へご案内してもらった。

今回の話は、プロジェクトの内容に関する、
ちょっとした変更だった。
けれど、たとえ小さな変更であっても、
その内容によっては、
ほかの部分が大きく変わることがある。

オンラインでは細かな要望が
伝わりにくいうえに、
かなり急いでおられたようだった。

たまたま空いていた今日の午前中。
本当なら、自分へのご褒美の時間に
使おうと思っていたけれど、
その時間を気持ちよくお譲りすることにした。
もしかしたら、この時間が、
いつか私自身への
ご褒美に変わるかもしれない。

そんなことを思いながら、
いろいろと話を聞いていたのだが、
どうにもまとまりがない。
おそらく、あれもやりたい、
これもやりたい、
こんなことも加えたい――
そんな思いばかりが、
次々と膨らんでいるのだろう。
お客様には、よくあることだ。

その一つ一つを聞き取りながら、
頭の中で現在のプロジェクトの大枠へと
はめ込み、
修正が必要な箇所を少しずつ動かしていく。
こちらに何かを入れれば、
そこにあったものをあちらへ回す。
あちらへ入れれば、
もともとあったものを、
さらに別の場所へ移す。

それが単純な駒の移動だけで済むのなら、
まだいい。けれど、
場所を移したことによって、
その中身の意味や質まで
変わってしまうことがある。

私の頭の中では、
もう一度、内容そのものを
描き直した方が
いいかもしれないという結論が、
少しずつ形になっていた。

心の奥では、正直なところ、
面倒だなと思っていた。
でも、企画の段階に穴があれば、
実際にプロジェクトが動き始めたとき、
どこかで必ず歪みが出る。
だから、ここはきちんと時間を使い、
もう一度練り直した方がいい。
そして、今よりさらによいものに仕上げよう。

ただ、今日はあまり手をつけたい
気分ではなかった。
ひとまず今日は、
聞くべきことをすべて聞いておく。
そして、明日の朝、
横浜で朝そばを食べたあとの、
まだ心も頭も爽やかな時間に
取りかかろうと思った。

打ち合わせは、
予定どおり一時間弱で終わった。
さあ、急いで家へ帰ろう。
横浜へ旅立つための、
最後の仕上げが待っている。