お昼のイングリッシュマフィンサンドを
食べ終え、
ほっこりとした気持ちになった。
涼しい車内で汗もだいぶ引き、
ようやく心地よくなってきた。

そろそろアイマスクをつけて眠ろうと思った、
そのときだった。
車両前方のドアの上にあるテロップに、
「米原を通過しました」という案内が流れた。

「まいばら」という響きが、
なんだかとても懐かしかった。
以前、何度か訪れたことがある。
けれど、私はその先にある
滋賀県長浜の方が好きだ。
豊臣秀吉が築いた長浜城のある町だ。

今日は親子丼の日。
そのことから、
長浜でいつも行列ができている、
親子丼のお店を思い出した。

私は若い頃から、
黒壁スクエアを訪れ、
ガラス細工のお店を眺めて
歩くのが好きだった。
そして、長浜名物の鯖そうめんを
食べるのも楽しみの一つだった。

どちらかといえば、親子丼は苦手だ。
それでも、いつもお店の前に
できている長い行列を見ながら、
「どうして、このお店の親子丼は、
こんなにも人気があるのだろう」と、
ずっと気になっていた。

あるとき長浜を訪れると、
珍しくその店の前に行列がなかった。
苦手ではあるけれど、
一度くらいは話の種に食べてみよう。
そう思い、すかさず店の中へ入った。

運ばれてきた親子丼は、
ネットの口コミに書いてあったとおり、
確かに「ダブル卵」だった。
ふわとろの玉子でとじられた
親子丼の真ん中に、
さらに生玉子がのっている。

私は玉子そのものは好きだけれど、
生玉子は苦手だ。
焼き鳥は好きなのに、
だしで煮られ、
ふやけたようになった鶏肉も苦手。
だから、茶碗蒸しに入っている鶏肉も、
いつも残してしまう。

つまり、その親子丼は、
生玉子と鶏肉という、
私にとっての「ダブル苦手」だった。
鶏肉は残し、
生玉子には上から熱いふわとろ玉子をかぶせ、
その余熱で少し火を通しながら食べた。

決して、私の好みの味ではなかった。
それでも、実際に自分の目で見て、
自分の足で店を訪れ、
自分の舌で味わってみる。

要するに、経験するということは、
何かを語るうえで、
とても大切なのだと思う。
同じお店の話をするにしても、
ただ聞いた話を伝えるのと、
自分で足を運び、
実際に食べたうえで話すのとでは、
言葉の奥行きがまるで違う。

だから私は、なるべく自分の足で出向く。
「運ぶ」とは、「運」という字を書く。
運ばなければ、運はつかめない。
そう思いながら、
私はアイマスクを手に取り、
再びゆっくりと座席に身を沈めた。