あふれんばかりの風に迎えられ、
広い広い海に迎えられ、
雲の向こうでかすかに輝く
朝の光を感じながら、
私の朝は静かに始まった。

まるで神秘の世界に
迎え入れられたようだった。
心は澄み渡り、
どこまでも爽やかだった。
この弾むような気持ちで、
今日の物語を始めよう。

ぽつり、ぽつりと雨が降ってくる。
濡れてしまうほどではない。
乾いた心に、
そっと潤いを与えてくれるような
優しい雨だった。

柔らかな風が吹き抜ける。
見上げると、サルスベリの枝が揺れ、
「お帰りなさい」
そう語りかけてくれているように見えた。

そんな自然に歓迎されながら、
私は横浜中華街の門をくぐる。
五日ぶりだ。
門を見上げ、あちらこちらを見回しながら、
見慣れた景色をゆっくり味わう。
風は今日も、
ずっと私の後ろを歩いている。
時折、肩をたたくように、
「どう? 懐かしい?」と声をかけてくる。
私は思わず微笑んだ。

まずは五日ぶりの関帝廟へ。
願い事は、いつも同じ。
向こうの町で立ち寄る小さな神社でも、
こちらで手を合わせる関帝廟でも、
願うことは変わらない。
ささやかな幸せ。
その願いを胸に、神様も、仏様も、
きっと見守ってくださっていると信じながら、
今日も前へ進む。

今日は少しだけ出発が遅れた。
本当なら中華街を
いつものようにジグザグ歩きたい。
でも、そうすると
朝そばの開店時間に間に合わなくなる。
今日は時空ではなく、
道順を少しだけワープすることにした。
まっすぐ関帝廟へ向かい、
そこから朝そばへ。
それも今日の物語。

昨夜は午前二時近くまで、
食べて、飲んで、笑っていた。
だから少しお腹が重い。
今日は食べられるだろうか。
そんな不安もあった。
けれど、おそば屋さんへ近づくにつれて、
不思議なくらい食欲が戻ってくる。

五日ぶりの横浜の朝そば時間。
やっぱり私は、冷やし長茄子そば、ネギ多め。
先ほどまでは、
「今日はイカ天はやめておこうかな」
そう思っていた。
でも、お店の前へ着いた瞬間、
やっぱり食べたい。
そう思ってしまう。

ちょうど店員さんが注文を聞きに来られた。
まだ少し迷っていたのに、
口から自然に、
「イカ天もお願いします」と言っていた。



家では十割そばを食べていた。
その力強いコシを味わうたび、
この横浜の朝そばを思い出していた。
「早く帰って食べたい」
そんな思いが、ようやく叶った。

五日ぶりの朝そば。
よく噛み、
ゆっくり味わい、
そばの香りと一緒に、
横浜の香りまで味わう。
帰ってきた喜びが、
胸いっぱいに広がっていく。

お腹もいっぱい。
心もいっぱい。
味も、香りも、雰囲気も、
全部が美味しかった。

そして思う。
また明日も。
明後日も。
その次の日も、ここへ来られる。
そう思うだけで、心がまた弾み始めていた。

朝そばを食べ終えた私は、
大岡川と野毛の町へ向かう前に、
いつもの馬車道のベンチへ向かった。
少しだけ腰を下ろして、
今日という物語の続きを、
風と一緒に考えようと思う。