時間には、まだ余裕があると思っていた。
ところが、接触事故の影響で、
途中で電車が停まってしまった。
少しずつ、心が焦り始める。
そのうえ、よく考えもせず、
ホームに入ってきた電車に飛び乗ったら、
車内は超満員だった。
まるで朝の通勤ラッシュ。
後ろの人と背中が
ぴったりくっついているのも、
なんだか気持ち悪い。
身動きもほとんど取れない。
こんな時は、
時間潰しにショートドラマでも観よう。
そう思って、久しぶりに画面を開いた。
何日かぶりに観る物語は、
思っていた以上に新鮮だった。
次々と押し寄せてくる感情に、
いつの間にか夢中になり、
食い入るように画面を観ていた。
そして、まさにこれからというところで――
映像が止まった。
現れたのは、サブスクの更新画面。
続きが観たい。
その気持ちのまま、
思わず更新しそうになった。
でも、ちょっと待って。
はやる心に、自分でそっとストップをかけた。
確かに、すごく観たい。
今のような満員電車の中なら、
ちょうどいい時間潰しにもなる。
けれど、
きっとまた私は「ご褒美時間だから」と
言いながら観てしまう。
そして、そのために寝不足になったり、
本当なら別のことに使えたはずの
大切な時間まで、
いつの間にか差し出してしまうのだろう。
だったら、しばらく観るのをやめてみよう。
その時間を、違う何かに使ってみよう。
そうすれば、
まだ知らない新しい何かに
出逢えるかもしれない。
そう思って、画面を閉じた。
そして、ずっと「千鳥」を聴いていた。
車内は、相変わらずぎゅうぎゅう詰め。
身体は人の波の中に閉じ込められている。
それでも、
窓の外を流れていく景色を魅ていると、
風が、「もう少しだから、頑張って」と、
言ってくれているような気がした。
風が私を呼んでいる。
そう思って、そっと目を閉じた。
すると、あれほど窮屈だった
満員電車の気配が、
少しずつ遠ざかっていった。
人の声も、車輪の音も、
背中に触れる誰かの気配も消えていく。
その向こうに広がっていたのは、
海を脱いで、
風になって、
どこまでも自由に漂っていくような、
「千鳥」の世界だった。
身体はまだ、ぎゅうぎゅう詰めの電車の中。
けれど、心だけはもう、風の中を歩いていた。
目を閉じれば、風の中✨
勃つねで応援-
-
共有で応援