一人ファッションショーに
夢中になっていたら、
気づけば18時を回っていた。
そろそろお風呂に入らなくちゃ。
家族に、
「今からお風呂に入るから、
ご飯、悪いけど19時くらいでいい?」
と言うと、
「え? お風呂、沸かした?」と聞かれた。
え?
私は確かに湯張りのスイッチを押して、
それからベランダに出て、
横浜からやってくるような風を
感じていたはず。
そう思いながら
お風呂のスイッチを見ると――
電源さえ入っていなかった。
押したつもりで、
すっかり忘れていたらしい。
また、やってしまった。
慌てて湯張りのスイッチを入れ、
お湯が溜まるまでの間に
晩ご飯の下ごしらえを始めた。
そばを茹で、アサリのお味噌汁を作る。
照り焼きハンバーグを
お皿に盛ってラップをし、電子レンジへ。
鶏の甘辛揚げはコンベクションオーブンへ。
そして、私のうなぎの蒲焼きは、
あとでフライパンで温め直せるように準備。
器まで全部並べて、
お風呂から出てきたら
10分以内で
食卓を完成させられるところまで整えた。
よし、完璧。
アサリの美味しいお味噌汁もできた。
お風呂に入り、身体にニベアを塗って、
さあ、仕上げの10分。
そう思った、そのときだった。
コトコト、コトコト。
どこかから音がする。
「え? 何の音?」
キッチンへ行ってみると――
アサリのお味噌汁。
出来上がって、
火を止めたつもりだったのに、
どうやら止めるのを忘れていたらしい。
また、やってしまった。
今日は、そんな日なのかもしれない。
それでも晩ご飯は、
ちゃんと美味しく出来上がった。
そして私のお楽しみは、
もちろんうな十そば。
今日もまた、
デパ地下でうなぎの蒲焼きを
見つけてしまった。
買うつもりなんてなかった。
けれど、「三河一色産です」
なんて言われたら、
黙って素通りできるはずがない。
少し小さめの一尾を買ってしまった。
十割そば半玉に、
そのうなぎを一尾、どん。
今日はいつもより少し豪華な、うな十そば。
しかも肝までついている。
うなぎ一尾と肝一個を、
私はひとりで全部いただいた。
「ああ、美味しい……」
さすが、三河一色産。
これぞ至福の、うな十そば時間。
横浜での朝そば時間もいいけれど、
自宅でのうな十そば時間も、たまらない。
そして、やっぱり私は思う。
そばは十割そばだ。
一方、家族は照り焼きハンバーグに喜び、
鶏の甘辛揚げに喜び、
いくつか買ってきたサラダを見て、
「わあ」と声をあげてくれた。
でも、「うなぎは絶対いらない」らしい。
こんなに美味しいのに。
まあ、そのおかげで一尾丸ごと
私のものなのだから、それはそれで嬉しい。
食事を終えると、
いつものように自然な役割分担で
後かたづけを済ませた。
そして私は、夜風に逢いにベランダへ出た。
椅子に腰かけ、空を見上げる。
もう、すっかり暗い。
けれど、街の明かりも、
家々の窓の明かりも、
煌々と輝いている。
夜中や夜明け前の静かな灯りとは違う。
まだ誰かが笑い、
誰かが食事をし、
誰かが今日という一日を生きている。
そんな気配を宿した、
躍動する夜の明かりだった。
明日の今頃、私はもう横浜にいる。
そう思うと、
このベランダから見る景色まで、
急に名残惜しくなった。
しっかり魅ておこう。
この空も。
この街の灯りも。
この家で過ごした時間も。
そう思いながら、
しばらく夜景を魅つめていた。
すると、風が来た。
私の風が来た。
そして、その風の向こうから、
横浜の風まで
迎えに来てくれたような気がした。
明日、私を横浜までふわりと運んでね。
心の中で、二つの風にお願いをする。
ただ、ひとつだけ気になるものがある。
台風。
私の旅立ちの日に、
風が風の邪魔をしませんように。
そんな少し矛盾したお願いまでしながら、
私はまた遠く横浜を想う。
ようやく心地よくなってきた
我が家を離れる寂しさと、
明日から始まる横浜へのときめき。
その二つの気持ちの間で、
私の心はまだ行き先を決められずにいる。
ただ、風だけは
もう知っているのかもしれない。
明日、私が向かう場所を。
だから今夜は、風にすべてを預けておこう。
この町への名残惜しさも、
横浜への憧れも、
明日への少しの不安も。
そして、そっと頼んでおく。
明日もよろしくね。
私を、横浜まで連れていって。
明日の風へ✨
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