新しい一日の始まりに聴く曲。
やっぱり、今日も「千鳥」だった。
風が外で呼んでいる。
呼んでいる。
さあ、行こう。
そんな歌声を聴いていると、
今日も一日前を向いて歩いていこう、
という気持ちになれる。
明るくて、爽やかで、リズミカル。
聴いているだけで、なんだか気分がいい。
ただ、つい最近まで、
ひとつだけわからない言葉があった。
「海を脱いで」
海を脱ぐって、どういうこと?
服を脱ぐならわかる。
海へ行こう、でもない。
どうして「海」を「脱ぐ」んだろう。
そもそも、私がこの曲を
どこで初めて聴いたのか、
今でも思い出せない。
2026年の曲なら、
ずっと昔から知っていた歌でもない。
それなのに、耳だけは覚えていた。
日記の中で風の物語を書き始めた頃、
「たしか、風が呼んでいるような
歌があったよね」
そんな淡い記憶が、心のどこかに残っていた。
でも、その時は
わざわざ調べようとは思わなかった。
ある日ふと、
「ああ、今の私って、
風に呼ばれているような気分だ」と思った。
そしてネットで探して、
ようやく出逢ったのが「千鳥」だった。
私は曲のリズムも好きだけれど、
それ以上に心を向けるのは歌詞だ。
何度も、何度も聴く。
そして歌詞を文字で追いながら考える。
これは、どんな景色なんだろう。
主人公は、今どんな気持ちなんだろう。
この言葉には、
どんな意味が隠れているんだろう。
この歌で、本当に伝えたかったことは
何なんだろう。
そうしていると、
まるで昔の国語の授業みたいだな、と思った。「この『それ』という指示語は
何を指していますか」
「この時、主人公はどんな気持ちでしたか」
「作者が最も伝えたかったことを答えなさい」「この文章の要点を
100文字以内でまとめなさい」
そんな授業が、
延々と続いていたような気がする。
算数や数学が好きだった私は、
その頃、こんなことを考えて、
一体何の役に立つんだろう。
そんなふうに思っていた。
国語の授業を、
少し馬鹿にしていたのかもしれない。
けれど、大人になってわかった。
国語というのは、
私たちの言葉そのものなのだ。
考えること。
感じること。
そして、その思いを誰かへ伝えること。
他のどんなことを理解するにも、
その根っこには言葉がある。
だからきっと、国語はすべての基本なのだ。
いつの頃からか私は、
言葉を思い浮かべることが好きになった。
文章を書くことが好きになった。
自分の思いをできるだけわかりやすく、
それでいて少しでも心に響く
言葉を探しながら伝えることが、
好きになった。
だから「千鳥」も、もっと知りたくなった。
「海を脱いで」
なぜ、海なのか。なぜ、脱ぐのか。
その奥にある作者の声を聞いてみたくなった。
調べた。また調べた。
前後の言葉を何度も噛みしめ、
自分なりに考えた。
そして、ある時ふっと気づいた。
ああ。これって、
私がいつも風にしてもらっていることと、
同じなのかもしれない。
風に心の重たいものを預ける。
余計なものを脱いでいく。
少しずつ軽くなって、
本来の自分へ戻っていく。
そう考えた瞬間、
「海を脱いで」という言葉が、
急に私の世界へ入ってきた。
それから、
この曲はますます味わい深くなった。
誰かの曲なのに、
少しずつ私のものにも
なっていくような気がした。
もっと他の言葉も紐解いてみたい。
そんな思いまで湧いてきた。
だから「千鳥」が流れると、
私は自然に空を見上げる。
風を感じる。
鳥のさえずりを聞く。
木々の囁きに耳を澄ませる。
ところが今日、いつもの道を歩いていて、
ふと気づいた。
こんなところに、小学校があったんだ。
毎日のように通っているのに。
おそらく私は、上ばかり魅ていたのだろう。
空を魅て。
雲を魅て。
鳥を魅て。
風ばかり追いかけていた。
だから、すぐそばにあるものを
見落としていた。
なんてもったいないことをしていたんだろう。
上を向くことはいい。
高いところを目指すこともいい。
けれど、上ばかり向いていたら、
足元の小さな石につまずいてしまう。
身の回りにあるものをちゃんと魅る。
足元にも目を向ける。
そして大地をしっかり踏みしめながら、
一歩ずつ前へ進む。
そんなことが大切なのかもしれない。
なぜだろう。そこまで考えた時、
比叡山延暦寺を開いた最澄の言葉が、
ふっと心に浮かんだ。
一隅を照らす。
遠くばかりを見るのではなく、
まず自分の立っている場所を大切にする。
私の風は、いつの間にかそんなところまで、
私を連れてきてくれたようだった。
……と思った、
その瞬間。頭の中の画面が、
ぱちんと切り替わった。
そうだ。
今日は7:00までには帰らないといけない。
帰ったらお風呂に入って、
朝ごはんの支度をする。
そして8:30には家を出て、
家族を病院へ送らなければならない。
さっきまで遥か彼方へ飛んでいた私の心が、
一気に現実へ戻ってきた。
今日は、私が横浜へ旅立つ日。
こちらで迎える、とりあえず最後の朝。
だからこそ、最後まで丁寧に歩こう。
空も魅る。
風も感じる。
鳥の声も聞く。
そして今日は、足元もちゃんと魅ながら。
地面を踏みしめて、
一歩、
一歩。
さあ。
そろそろ帰ろう。
現実へ戻るのもまた、
今日の物語の続きなのだから。
千鳥が連れていく朝✨
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