風たちからの歓迎セレモニーを
受けているうちに、
まるで「千鳥」を聴いたときに観た
プロモーションビデオの中に、
自分が入り込んでしまったような
気分になった。

両手を高く上げて、
リズムに乗って、
くるくると回る。
そんなことを本当にしてしまいそうなくらい、
嬉しかった。

横浜の風を身体いっぱいに浴びながら、
喜びいっぱいで歩いた。
ああ、気持ちいい。
やっぱり、この風が好き。

ただ――荷物は、重かった。
ここ最近は四日間の滞在が
二回続いていたけれど、
今回は初めての十日間の横浜ステイ。
当然ながら、荷物の量もいつもとは違う。
キャリーケースを引いていた手には、
どうやら豆までできてしまったらしい。

ようやくお部屋の鍵をもらっても、
今度は1階から2階までの
階段が待っている。
重い。
とにかく重い。
風に浮かれていた私も、
ここだけは現実に引き戻された。

それでも、四日ぶりにお部屋へ戻ると、
そんな疲れが少し吹き飛んだ。
部屋の様子と寝具のたたみ具合を見るかぎり、
どうやら私が出てから
誰も使っていなかったようだ。
四日前。
私がここを出たときの余韻が、
そのまま残っている。
それが、なんだか嬉しかった。
「ただいま」心の中で、そっと言った。

仕事を終えて帰ってきたら、
すぐにいつもの生活を始められるように、
荷物を次々と取り出して片づけていく。
もう慣れたものだ。
いつもなら、
だいたい四、五十分もあれば
私の横浜での巣作りは完成する。

けれど、今日はやっぱり荷物が多い。
冷凍ご飯。
ゆで玉子。
ペットボトル。
野菜ジュース。
並べながら、
「そりゃあ、重たいはずだわ」と、
ひとりで納得した。

でも、このたくさんの食べ物や飲み物も、
十日後にはきれいになくなっているはず。
ひとつ食べるたび。
一本飲むたび。
荷物は少しずつ軽くなっていく。
それを想像すると、
なんだか楽しみでもある。
でも――。
最後のひとつがなくなる頃には、
「もう帰るんだ」
と思って、
少し寂しくなっているのかもしれない。

まだ始まったばかりなのに、
もう十日後のことを考えている。
そんな自分がおかしくて、少し笑った。

さあ。
そろそろ、お店へ出勤しよう。

今日は18時からご予約をいただいている。
野毛飲みに連れて行って
いただくことになっていて、
長い時間を取ってくださっているから、
今日は待機もそれほど長くはなさそうだ。

いつものような
本格的な巣作りはしなくてもいいかな。
でも、私の居場所だけは
ちゃんと確保しておこう。

横浜のお部屋の巣作りを終えたと思ったら、
今度は待機所の小さな居場所を確保する。

私はいったい、
一日にいくつ巣を作るのだろう。
そんなことを思いながら、鏡の前へ。
ちょこっとメイクを直して、
髪を整えて。

窓の向こうでは、
さっき私を盛大に迎えてくれた風たちが、
まだ遊んでいる。

さあ、行こう。
十日間の横浜ステイ、その最初の夜。
今度は風に背中を押してもらいながら、
あなたの待っている場所へ向かいます。
お逢いできること、
楽しみにしています。