ようやくたどり着いたパン屋さんには、
たくさんの種類のパンが並んでいた。
どれにしよう。
少し迷った。
けれど、苦手なものを
ひとつずつ候補から外していくと、
結局選んだのは、
ハムとチーズの塩パンサンド。
やっぱり私は、
こういうシンプルなものに落ち着くみたい。
そして、小さなプチパンも見つけた。ショコラのプチパンと、メロンパンのプチパン。
それに水を一本。
袋に入れてもらい、手にぶら下げながら、
今度は地上へ戻ることにした。
駅員さんに尋ねた。
「関内ホールへ行くには、
どの出口から出たらいいですか?」
すると、
「5番出口から出て、
そのまままっすぐ歩けば関内ホールですよ」
と教えてくださった。
よし。5番出口。
この駅にはちゃんとエスカレーターがある。
……のに。
私は、なぜか階段を選んだ。
一段。
また一段。
何段も、何段も上る。
今朝、もう十分歩いているというのに。
それでも自分の足で上りたくなった。
ようやく地上へ出ると、どうやら、とんかつ屋さんの「さくら」のあたり。そこから関内ホールを目指し、まっすぐ歩いた。
そして結局——
私はまた、いつもの馬車道の
“私の専用ベンチ”に座っていた。
朝の始まりにも座った、このベンチ。
ぐるぐる歩き回って、
いろんなところへ行って、
またここへ帰ってきた。
なんだか可笑しい。
さすがにお腹も空いてきた。
日記を書きながら、
買ったばかりのプチパンをひとつ。
そして、もうひとつ。
結局、二個とも食べてしまった。
甘い。
美味しい。
水をごくり。
ふう。
足も、だいぶ疲れてきた。
日記を書き終えるころには、
時刻はもう8:10を回っていた。
パン屋さんへ行くだけだったはずなのに。
ずいぶん時間がかかった。
でも、明日からはもう迷わない。
いつもの道を歩いて、
5番出口のあたりから地下へ入り、
ちょっと寄り道すればいい。
それだけのことだった。
でも、それがわかっただけでも、
今日の大きな収穫。
そう思えば、
この長い長い遠回りも無駄ではなかった。
時計を見る。
時間もずいぶん遅くなった。
足も疲れた。
そして、また少しお腹も空いてきた。
考えてみれば、歩き始めたのは5:00少し前。
もう三時間半近く、
外をうろうろ、
ぐるぐる、
散策していることになる。
今日はもう、大岡川へは行かない。
久しぶりに、
そのまま伊勢佐木モールをまっすぐ
歩いて帰ろう。
8:30ごろの伊勢佐木モール。
この時間に歩くのは、
なんだか新鮮だった。
いつもの私がここを歩くころは、
24時間営業のお店くらいしか開いていない。
でも今日は違う。
モーニングを出しているカフェが開いている。
朝ごはんのお店も開いている。
まだシャッターの閉まった店もあれば、
開店準備を始めている店もある。
街が少しずつ目を覚ましていく。
そんな空気を感じながら歩いた。
そして、風が吹いてきた。
ああ。
私の風。
地下へ降りている間は、
どこかで待っていてくれたのだろうか。
また、ちゃんと私のところへ戻ってきた。
今日は、ただひたすら
パン屋さんを目指して
歩いただけのようにも思える。
どこにいるのかわからなくなって。
ナビに言われるまま、
右へ行ったり、
左へ行ったり。
ぐるっと遠回りして。
ちょっと迷子になって。
でも、その途中で、知らなかった道を歩いた。
知らなかったお店を見つけた。
いつもとは違う角度から建物を見た。
朝の街を歩く人たちの姿を見た。
開店していく店を見た。
純白のウェディングドレスを魅つめた。
そして、自分の中にも、
いくつもの言葉が生まれた。
だったら——回り道も悪くない。
寄り道も悪くない。
パン屋さんひとつを目指して、
馬鹿みたいに迷子になるのだって、悪くない。
目的地へ最短距離で着くことだけが、
いい一日ではないのだ。
今日は午前中、特に急ぐ予定もない。
多少遅くなったって構わない。
疲れた。確かに疲れた。
でも、それ以上に、
とても有意義な時間を過ごした。
そう思う。
そろそろ、今日のウォーキングもゴール。
気づけば、歩いた距離は10kmを超えていた。
もう距離そのものには、
それほどこだわっていない。
それでも、「今日もよく歩いたな」という
小さな達成感は、やっぱり少し嬉しい。
パン屋さんを見つけた喜び。
知らなかった道を知った喜び。
今まで見えていなかったものが、
急に見えるようになった喜び。
そして、遠回りしたからこそ
拾うことのできた、
いくつもの小さな発見。
それらを全部、胸の中へ持ち帰ろう。
パンの入った袋と一緒に。
風も一緒に。
今日という朝にしか出逢えなかったものを
、いっぱい抱えて。
さあ、お部屋へ帰ろう。
回り道も、悪くない✨
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