急いで定例会から戻ってきたのが10:02。
ここまでは読み通りだった。
そこから慌てて準備を整え、
時計を見ると10:10。

「10時からの会議に10分遅れます」
そう伝えていたから、
きっちり10分遅れで会議に参加した。

朝のうちは、
どうせ遅れるのだから
20分くらいになってもいいかな、
なんて思っていた。
でも、いざ仕事モードに切り替わり、
身体の中にピリッと一本の線が通ると、
やはり言ったことは
きちんと守らなければと思った。

20分遅れるなら、
最初から20分遅れると伝える。
10分遅れると言ったのなら、
10分以内に参加する。
そんな小さなことも、
一日のけじめとして大切なのだと思う。

私が担当しているプロジェクトは、
今のところ順調。
特に問題もなく報告を終えた。
そして、
ここからは他部署の報告が延々と続く。

聞いているような、聞いていないような。
誰かが話している声が、
だんだん眠りを誘う
BGMのように聞こえてきて、
左の耳から入り、
そのまま右の耳へ抜けていく。
ああ、風さんでもいればいいのに。

このエアコンの風の中に、
風さん、混じってないかな。
そんなことを思いながら、
時折エアコンの方を見つめていた。

報告するべきことが多いのだから仕方がない。
それでも長く続いた報告会がようやく終わり、
会議も最後のまとめへ。
今日は特に問題もなく、
長引くこともなく、
13時10分前には終了した。

そして次は会食。
お弁当が用意された部屋へ、
みんなでゾロゾロと移動する。
席はあらかじめ決まっていた。

自分の席に置かれたものを見て、
あ、これは。
朝から「今日のお昼は何だろう」と
気にしていたのに、
忙しくしているうちに、
そんなことはすっかり忘れていた。

でも、この入れ物の形は、
まさに――うな重。
また今日のお昼もうな重だった。
しかも今日は、うな重だけではない。
うざくの小鉢に、う巻き、
そして肝吸いまでついている。

よっ、豪華。
みんなが席に着く頃を見計らって、
温かいお吸い物も運ばれてきた。
うん、やっぱりお吸い物は
温かい方がおいしいものね。

そして、期待を込めてうな重の蓋を開ける。
え?昨日食べた将軍うなぎより
豪華なのかと思っていたのに、
肝心の鰻の蒲焼きが
半分ほどしか入っていない。

鰻と鰻の間から、ご飯が
まるで山の裾野の地肌のように覗いている。
残念……。
私はご飯をたくさん食べたいわけではない。
鰻の蒲焼きを、たくさん食べたかったのに。

そんな小さながっかりを
抱えながら食べていると、
会議がスムーズに終わって
機嫌が良かったのか、
ボスがニコニコしながらみんなと話していた。

そして、ふいに私の方を向いた。
「最近、生き生きとして
綺麗になったんじゃないの?」
え?あまりに突然だったから、
びっくりした。
でも、すごく嬉しかった。

心の中では、――わかる?なんて、
ちょっと得意げな私がいたけれど、
「え、そうですか?」と、とぼけておいた。

「綺麗になった」というところは、
ちょっと横に置いておこう。
でも、「生き生きとしている」
そう言われたことは、本当に嬉しかった。
それは、自分でも
少し感じていたことだったから。

毎日、いろんなことがある。
楽しいことばかりではない。
嫌なこともある。
苦しいこともある。
もう全部投げ出して逃げてしまいたいと
思うときだってある。

それでも私は、なぜか前を向いて歩いている。
そして、なぜか生き生きとしている。
どうしてなのだろう。
そう考えたとき、
やっぱり毎朝のウォーキングが浮かんだ。

朝の道を歩きながら、心を無にする。
ただ前へ進みながら、
空を見上げ、
雲を見つけ、
木々を眺め、
鳥の声を聞き、
風さんを感じる。

そして、そのとき心に響いたものを、
一つひとつ自分の中へ馴染ませていく。
今日受け取ったものを抱いて、また次の日へ。

そして次の日も、
新しい風景を受け取りながら前へ進む。
そんな毎日の積み重ねが、
知らないうちに私の表情にまで
滲み出していたのかもしれない。

自分でそう思っているだけではなく、
誰かの目にそう映っていた。
それが、何より嬉しかった。

今日のうな重は、
鰻が半分しかなくて残念だったけれど、
「生き生きとしてるんじゃない?」
思いがけずもらったこの言葉は、
今日のお昼にいただいた何
よりのご馳走だったのかもしれない。

この言葉も、私の心に響いた。
だから、忘れないように、
私の心のサンクチュアリーへ、
そっと入れておこう。
……なんて、
しばらく感じ入っていたかったのだけれど。

時計を見れば、もう13時。
そうだった。
次の予定は13時からなのだ。
残念ながら、余韻に浸っている場合ではない。
さあ、次へ。