長い一日が終わろうとしている。
夜の静けさの中で、ゆっくり振り返る。

窓の外では、
遠くの音がひとつずつ消えていく。
部屋には、冷たさを含んだ空気が満ちている。

朝には、目の前にあるものを
美しいと思える心があった。
時間に追われるうち、
間に合ったことにほっとしながら、
もう少し自分を律したいとも思った。
うっかりしていたことより、
そのこと自体を忘れていた
自分に気づいたときのほうが、心に残った。

やることを追いかけるあまり、
考える時間まで
置き去りにしていなかっただろうか。
動くことも、立ち止まることも必要なのだと、
少しわかった気がする。

そんなことを考えながら外へ出ると、
雨上がりの風が頬を撫でた。
湿った土の匂いが、
空気にかすかに混じっている。
涼しい。
ただそれだけで、
張りつめていた心がゆっくりほどけていった。

嬉しそうな顔を見て、私まで嬉しくなった。
何かをしてあげたつもりが、
満たされたのは私のほうだった。
胸の隅に残っていた後ろめたさも、
いつの間にか薄れていた。

振り返れば、
この一日は出来事の並びではなく、
そのたびに揺れた心として残っている。

美しいと思ったこと。
自分を省みたこと。
風に心をほどいてもらったこと。
誰かの笑顔から幸せをもらったこと。
どれも大きな出来事ではないのかもしれない。
けれど、そうした小さな感情が重なって、
私をつくっている。

明日が始まる前に、
反省も、
嬉しさも、
少しの可笑しさも、
無理に整理せず、
このまま胸に置いておこう。

夜は静かに深まっている。
その静けさは何も求めず、
ただ疲れた心を休ませてくれる。

風さんも、もう何も言わずにそばにいる。
見守ってくれたように、
私もこの一日を忘れずにいよう。

いろいろあった。
うまくできなかったことも、
心が揺れたことも、
思いがけず嬉しかったことも、
すべて私の一部だった。

だから、もう何かを足したり、
なかったことにしたりしなくていい。
できたことも、
できなかったことも、
迷った時間も、
笑えた瞬間も、
そっと抱きしめておこう。

そうしているうちに、
心の奥に残っていた力が、
少しずつ抜けていく。

明日のことは、明日の私に任せればいい。
今夜は、もう頑張らなくていい。
ただ、この一日をそのまま終えて、
静けさに身をゆだねよう。

風さんの気配を感じながら、
ゆっくり目を閉じる。

今日も、いい一日だった。
そして私は、ようやく安心して眠りにつく。