私の今日の居場所に、
ぱっと荷物だけを置いて、
すぐにあなたとの待ち合わせ場所へと
向かった。
そろそろ日が暮れていこうとする頃。
太陽の日差しもずいぶん弱まり、
吹く風が肌に優しい。
でも、見上げた空だけは、
とても綺麗な空色をしていた。
あの空だ。
朝、建物と建物との間の狭い空間から
見上げていた空。
男の人の顔に見えたり、
太陽に見えたり、
水墨画に見えたり。
あの小さな空のキャンバスには、
これまでいろんな風景を見せてもらった。
けれど今、
見上げているキャンバスは空色一色。
まだ、もともとの色から
何色にも染められていない。
そう思った瞬間、ふと気づいた。
今日から始まった6日間の横浜ステイも、
この空と同じなのかもしれない。
まだ何も描かれていない空色のキャンバスに、
これから毎日、
私の心が一つずつ絵を描いていく。
どんな風景に出逢うのだろう。
どんな色を拾うのだろう。
そして6日間が終わったとき、
このキャンバスには
いったいどんな絵が完成しているのだろう。
そう考えると、
なんだか素敵なことが
たくさん起こるような気がしてきた。
そして今、その最初の一筆を
描いてくれるあなたに逢いに行く。
一週間ぶりの逢瀬。
あなたの顔を見るのも一週間ぶり。
きっとまた、
人目もはばからず
抱きついてしまうかもしれないわ。
そんなことを考えていたら――
あっ、あなたが見えた。
あなたも私に気づいた。
大きく手を振る。
今日は信号無視はしないわよ。
ちゃんと信号を待って、横断歩道を渡る。
「久しぶり。嬉しい。ありがとう。
横浜に来てすぐにあなたに逢えるなんて」
そう言いながら、
結局また横断歩道を渡ったところで、
あなたに抱きついてしまった。
嬉しい。ただ、それだけだった。
いつものようにコンビニへ寄り、
お酒とおつまみを買って、
いつものホテルへ。
お部屋に入ると、
買ってきたものをすぐにテーブルへ並べる。
そして、乾杯。
あなたとの時間は、
いつも逢えなかった間の
いろんな話から始まる。
あんなことがあった。
こんなこともあった。
話して、飲んで、食べて、また話して。
なぜかいつも、どんどん盛り上がってしまう。
そして、ふと時計を見る。
えっ、もうこんな時間?
飲んで、食べて、喋っていただけなのに、
もう時間になってしまった。
そんなとき、あなたはいつも言ってくれる。
「延長するよ」
今日もまた、ありがとう。
少しでも長くあなたと一緒にいられることが、
とても嬉しい。
あなたには話がある。
情がある。
そして何より、その言葉の向こう側に、
まっすぐな人柄がある。
私はそんなあなたの話を
聞いている時間が好き。
飲んで、喋って、笑って。
ふと顔を上げれば、
あなたの温かな瞳が私を見つめている。
その眼差しに包まれていると、
なんだかとても幸せな気持ちになった。
そして、あなたの優しい腕に包まれる。
すぐそばにあなたがいる。
温もりがある。それだけで嬉しい。
あなたと会話を交わしながら、
そのまっすぐな人柄に触れている時間が、
私はやっぱり好きなのだと思う。
今日もまた、
まっすぐな瞳に見つめられながら、
飲んで、
笑って、
語り合って、
抱きしめ合って。
愉快で、楽しくて、
ときめく時間が流れていった。
素敵な時間をありがとう。
そして、
あなたの真心をありがとう。
でも、あなたは、また延長してくださった。
次のご予約が終わるまで、
この部屋で、
私を待っていると言ってくださった。
すごく嬉しい。
また、あなたのところに戻ってくるね。
ホテルを出ると、風さんが待っていた。
私の顔を見るなり、
なんだか嬉しそうに
私のまわりへ集まってくる。
きっと、私の輝くような笑顔を
見つけたのだろう。
「もう早速、素敵な色を纏っているみたいね」
風さんが私のまわりをくるりと回った。
「あなたの今の色、
もう深紅色に輝いているわよ」
深紅色――。そうか。
さっきまで、
何色にも染まっていなかった
空色のキャンバス。
横浜に着いたばかりの私の六日間に、
もう最初の色が生まれたんだ。
大切な人と素敵な時間を過ごすこと。
心がときめくこと。
心から笑えること。
その一つひとつが私の内側を輝かせ、
やがてその輝きが、
私自身のオーラになっていく。
なんて幸せなことなのだろう。
六日間のキャンバスに描かれた、
最初の一筆は深紅色。
このあと、いったい何色が
重なっていくのだろう。
「じゃあ風さん、
次のホテルへ向かいましょう」
風さんが、待ってましたとばかりに
私の横へ並んだ。
「一緒に行きましょう」
深紅色の余韻を心に纏い、
私はまた、次の物語へと歩き始めた。
最初の一筆は、深紅色✨
勃つねで応援-
-
共有で応援