お店の入り口に差しかかったところで、
メールの着信音が鳴った。
お店からだった。
13時からのご予約。
「あ、ちょうどいい。一時間ある」
そう思って安心し、
準備を済ませてゴロンと横になった。

日記の続きを書こうとスマホを手に取る。
13:07。
あれ?
一時間、おかしい。
そこでようやく気づいた。
私の頭の中の時計だけが、
いつものように12時を指していたのだ。
あちゃー。
またやってしまった。

慌てて準備を整え、飛び出した。
風さんまでびっくりしている。
「あれ? 一時間後じゃなかったの?」
どうやら風さんの時計まで、
私につられていたらしい。

初めてお逢いするのに遅刻。
本当にごめんなさい。
そんな気持ちを抱えながらも、
ホテルへ向かう心には、
もう小さな期待が芽生えていた。

13:00〜ご予約くださったあなた、
ありがとうございます。
どんな方なのかしら。
どんな時間になるのかしら。
色づくような素敵なひとときになればいいな。

風さんと一緒に急ぎ、
本日最初のドアが開いた。
迎えてくださったのは、
にこやかな笑顔のあなた。

「わあ、すごく大きい」
思わず口からこぼれた。
180センチ後半はありそうな背の高さ。
けれど、少しはにかんだ表情が
なんとも可愛らしい。

その大きな腕に包まれると、
不思議なことに、
いつもの私がどこかへ消えていった。
自分が華奢な女の子に
なったような気がして、
胸の奥がきゅっとときめいた。

優しく触れれば、素直に喜んでくれる。
その言葉が嬉しくて、
また心がほどけていく。
大きなあなたと、小さくなったような私。

熱く抱きしめ合った昼下がりは、
いつの間にか柔らかな色に染まっていた。

ホテルを出ると、ふわーっと風が吹いた。
風さんがお
友達まで連れて迎えに来てくれたみたい。

「なんだか嬉しそうね」
そうよ。
だって、いっぱい褒めてもらったんだもの。

その瞬間、
ふっと「桃色吐息」が心に浮かんだ。

慌てて始まった、一時間ずれた午後。
けれど帰り道の私は、
風さんに包まれながら、
ほんのり桃色に染まっていた。