心のサンクチュアリで、
私はアフロディーテの愛の光を
まとっているような気持ちで
空を魅つめていた。

薄いグレー、海の青灰色、
淡いピンクベージュ。
そして、
その空を貫く一本だけのピンクゴールド。
その一筋の光は、
アフロディーテが心の芽へ注いでくれた、
愛という名の光のようだった。

神話と現実が静かに重なった朝。
私が描く心の世界なのだから、
たまには厚かましく女神になってもいいよね。
そんなことを思いながら、
愛という名の光を心いっぱいに浴び、
今日という新しい物語を紡ぎ始めた。

こんな心で魅る世界なら、きっと美しい。
きっと輝かしい。
そして、きっと神々しい。
今日一日の物語は、
どんな仕上がりになるのだろう。
朝からそんなことを考えてワクワクしていた。
まだ一日、始まったばかりなのにね!

ふと、相田みつをの言葉を思い出した。
美しいものを美しいと思える、
その心が美しい。

小さな嵐のような風を受け、
木々は大きく揺れていた。
それなのに、私の心は静かだった。
ざわつくものもない。
ごつごつしたものもない。
ただ美しく、なめらかに、
静かに輝いているようだった。

そんな心で歩く帰り道。
足取りまでふわりと軽い。
今日はすでに、
いくつかのお誘いをいただいている。
14時半からのあなた。
16時からのあなた。
そして19時からのあなた。

あなたと過ごす時間は、
今はまだ何も描かれていない
真っ白なキャンバス。
そこにどんな色が生まれるのだろう。
どんな世界を二人で創っていくのだろう。
それを決めるのは、
あなたを魅つめる私の心。
そして、あなたが私を
どのように魅つめてくださるのかを
感じる私の心。
でも、今ならなんとなくわかる。
きっと美しい色になっていく。

魅つめ合うこと。
語り合うこと。
感じ合うこと。
時間をともにする二人にとって、
それはとても大切なことなのだと思う。

人と人との間には、
目には見えない糸があるのかもしれない。
それぞれまったく違う場所で、
違う時間を生きてきた二つの物語。
本来なら交わらなかったかもしれない
二本の糸が、
ある日、不思議な巡り合わせで出逢う。

あなたの糸と、私の糸。
逢うたびに少しずつ交わり、
二人だけの世界を織り上げていく。
初めは薄く、ぼんやりとしていた世界も、
逢瀬を重ねるたびに少しずつ輪郭を持ち、
色を重ね、その糸は強く鮮やかになっていく。

そんなことを考えていたら、
ふと、中島みゆきのあの歌、
大好きな一節に近づくと、
いつも少しだけ胸が熱くなる。
あなたとの時間をそこに置き換える。
隣にいるあなたを魅つめている。
言葉にしなくても、きっと伝わっている。
あなたは何も言わず、
どこか誇らしげに微笑んでいる。

私は、あの瞬間の二人の間に流れる
空気が好きだ。
あなたを魅つめる私と、
それを受け止めてくれるあなた。
目が合ったほんの数秒の中に、
それまで二人で織ってきた時間が、
そっと顔を覗かせる。
もしかすると幸せとは、
何か大きなものを手に入れることではなく、
「あなたと巡り合えてよかった」と、
心に灯がともる瞬間なのかもしれない。

その糸を抱いて生きる今、
私は静かに幸せだ。
そんなことを考えながら歩いていたら、
いつの間にか伊勢佐木モールへ戻っていた。
パン屋さんは開いていない。
パニーニのカフェも、まだ開いていない。

今日は手ぶらかな。
そう思ったところで、
モールの入口に開いているカフェを見つけた。
外から覗くと、
サンドイッチらしきものが並んでいる。
吸い込まれるように店へ入り、
モーニングメニューをテイクアウトした。

卵とベーコンを挟んだカイザーパン。
ベーコンは少し苦手だけれど、
卵で味をごまかせば、大丈夫だろう。
紙袋に入れてもらった。
なんだか、
紙袋を一枚もらえただけなのに嬉しい。

そうして歩いてきた距離を確認すると、
今日はいつもと違う道を通り、
それが海への近道になったのだろう。
6.5キロほどしか歩いていなかった。
でも、今の私はそんなことは気にしない。

歩いた距離よりも、
今朝、心の中に残ったものの方が
ずっと大きかったから。

アフロディーテが心の芽へ注いだ、
愛という名の光。
そして、まったく違う場所から
歩いてきた二つの物語が、
巡り合うことで生まれた一本の糸。
これから、
その糸でどんな色を織っていくのだろう。

紙袋を片手に、
私はまた少しワクワクしていた。
愛の光と、巡り合えた糸。
その二つを抱いた私の心は、
朝の荒い風とは反対に、
どこまでも静かに、
なめらかに満たされていた。