4時。
久しぶりに「暴れん坊将軍」を最初から観た。
いつもなら4時半に起きるから、
観られるのはほんの終わりの方だけ。
でも今日は、
最初からテレビの音が部屋に流れていた。
観ているというより、聞いている。
何度も観た話だから、
だいたいの流れはわかっている。

その声や音楽をBGMにしながら、
髪を乾かした。
ドライヤーをしまう。
ワックスをしまう。
ヘアオイルをしまう。
ヘアスプレーをしまう。
メイクが終わるたびに、
化粧水、乳液、美容液も、
一つずつポーチへ戻していく。
少しずつ、少しずつ。

六日間、自分のものにしていた部屋が、
元の姿へ戻っていった。
最後に残ったのは、
出発までに飲むお茶のペットボトル一本だけ。
飲み切ったら、それもゴミ袋へ入れればいい。

まだ同じ部屋にいる方は
帰ってきていないようだった。
少しうるさいかもしれないと思いながら
掃除機をかけた。
自分の部屋から洗面所、トイレ、
そしてキッチンのフローリングの途中まで。
これ以上は朝の音が響きそうだから、
このあたりでおしまい。

そして仕上げは、拭き掃除。
いつも持ってくる二枚のタオルのうち、
一枚を最後に雑巾として使う。
キュッ、キュッ、と床を拭いていく。
拭き掃除は、心の洗濯にいいという。
同じ動きを何度も繰り返すうちに、
心まで少しずつ整っていくらしい。
だから私は掃除が好きなのかもしれない。

六日間お世話になった床を、
掃除機では取りきれなかった埃まで、
キュッキュッと拭き取っていく。
ふと思った。
次は床用の洗剤も持ってこよう。
水拭きだけでは、もう少し輝きが欲しい。
そう思えるのも、
またここへ帰ってくるつもりだからだ。

やがて床は、すっきりと輝いた。
テレビの中では「暴れん坊将軍」も
そろそろ終盤。
将軍様が悪者退治へ現れ、
刀の鍔のあたりに三つ葉葵がキラッと光る。
ああ、そろそろ終わりだ。
テレビの物語も。
そして、この部屋での六日間も。

部屋を見渡した。
忘れ物はない。
床もきれい。
最後にコロコロを転がし、
掃除機のあとに
残った髪の毛がないか確認する。
ペーパーを一枚めくると、
まっさらな白が現れた。

次にここへ来るとき、
またこの続きから使えたらいいな。
この部屋も、9月4日に戻ってくるまで、
今のまま静かに待っていてくれたらいい。

さあ、出かけよう。
きっと風さんが待っている。
外へ出ると、
「おはよう。待っていたわよ」と言うように、
風さんが私の周りをふわふわと回った。
じゃあ風さん、一緒に帰ろう。

見上げると、
あの二本の木が静かにこちらを魅ていた。
「また待ってるね」
そんな声が聞こえたような気がした。

この六日間、
この二本の木にも
ずいぶん心を癒してもらった。
この二本の木にも名前をつけてあげたい。
でも今は、まだ思いつかない。
それでいい。
名前というものも、
きっと時が来たときに
自然に生まれるのだろう。

5時少し前。
お店に鍵を返した。
「お世話になりました。
ありがとうございました」
そう挨拶した瞬間、
私の心はもう次の町へ向かっていた。

駅までの道。
何度も歩いた景色。
慣れた景色なのに、
今日はそこへもう一度、
光を塗り重ねるような気持ちで歩いた。

でも、別れではない。
また9月4日の夕方には、ここへ戻ってくる。
そのとき、
今から連れて帰る心の新芽は、
今日より少しだけ大きくなっているだろうか。
いや。
そうなっていてほしいと願うだけではなく、
私自身の手で、少しずつ育てて帰ってこよう。

六日間で手にした光を、
その新芽へ注ぎながら。
無理をせず。
急がず。
けれど、ちゃんと前へ。